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「福島原発の真実」

「うちの庭で測ると、今も2.4(μSv/時)くらいはあるんですよ」
7月23日、紀伊国屋ホールでの舞台「アセンション日本」のアフタートークで
そんなふうにおっしゃっていた佐藤栄佐久元福島県知事。

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この本は、
佐藤氏が3月11日に、自宅で震災にあったところから始まる。
慌てて飛び出した庭先で、
道行くひとから「避難所はどっちですかっ?」と聞かれて学校をおしえたが、
数分後に戻ってきて「ガラスがひどくて入れないと言われた。
元知事なのに、避難所もわからないのか!」と叱咤された、とか、
けっこう生々しい描写が続く。
在任中、ずっと「原発の安全性担保」のために闘ってきた佐藤氏でさえ、
この大きな揺れの直後に
「原発は大丈夫か?」とは思い至らなかったという
衝撃的な一文もある。
この本を全部読みなおしてから、改めてこの一文を思い起こすと、
ああ、
人間というのは、いかに日常に流され、慣れてしまう動物なのか、思い知る。
ウソでも100回言われれば、ホントに思えてくる、という話もある。
私たちは「原発は安全」を連呼されてホントと思い込み、
疑問をもっても原発が存在し続ける毎日に慣れさせられてきた。
チェルノブイリがあって、
20年経って急にフクシマがあるのではない。
この20年、
原子力発電所でいかにたくさんの事故や不手際があり、
それがいかに隠ぺいされ、
教訓として生かされず、
今回の事故にまでなってしまったのかがわかる本である。
こんなに頑張っていた福島県なのに、
どうして、犠牲になってしまったのか。
引き返すポイントは、いくらでもあったのに。
原子力安全・保安院と政府との関係とか、
東電本店と現場の関係とか、
電力会社と下請けとの関係とか、
今、私たちがこの目で目撃していることと
繰り返し闘ってきた人の記録である。
「今」読むと、よくわかる。
そういうことなのだと思う。
この中で「日本病」という言葉が出てくる。
「責任者の顔が見えず、誰も責任をとらない日本社会の中で、
 お互いの顔を見合せながら、
 レミング(*)のように破局に向かって全力で走っていく、という決意でも
 固めているように私には見える。
 大義も勝ち目もない戦争で、最後の破局、そして敗戦を私たちが迎えてから
 まだ70年たっていない。」
今、なかなか「国か動かない」ことにいら立っている人は多い。
「国」と対峙するということが、いかなるものか、
そのシミュレーションとして読むというのもあるだろう。
福島第一原発3号機にプルサーマルがあるのかないのか、
そういう噂が立つ要因もまた、これを読むとわかってくる。
議会での「福島ではプルサーマルはやらない」という宣言を作りながら、
佐藤氏の失脚後にはその「宣言」も反故にされた経緯など、
まさに「破局に向かって全力で走っていく」日本の脆弱な民主主義が透けてみえてくる。
なぜ同じ敷地に「1号、2号、3号、…5号、6号」と原発が並ぶのか。
「原発」という甘い囁きに手を出した地方都市が
「原発」を作り続けなければ財政を維持できなくなるようなしくみについても、
この本は語っている。
アフタートークでも佐藤氏は言っていた。
「原発はきっかり30年、地域を栄えさせる。しかし産業は育たない。
 そして原発をもってくれさえすれば、という考え方に陥らせる。
 そしてすべての負の遺産は、次の世代にツケまわされる。
 世代をまたがって豊かさを享受することは不可能だ」
まるで麻薬か覚せい剤のように、禁断症状が表れて、
「もっと原発を!」と叫ばなければならなくなる、というのだ。
ここまで尽大な被害にあって、
その被害もまだ収束の目途が立たない。
だからこそ、今度こそ、失敗しないために。
私たちはこの本から何を得ることができるのか。
それは、
読む人、それぞれに課せられた命題でもある。
(*)レミング=野ネズミの一種。
        大量増殖、大量減少、群れをなしての集団移動という習性から、
        群れをなして海に飛び込むなどの集団自殺をする動物と思われていた。

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