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ロパートキナの「白鳥の湖」(マイリンスキー)

マイリンスキーバレエの「白鳥の湖」を、
ウリヤナ・ロパートキナ主演で観た。
一言でいって、
ロパートキナ一人、別次元のバレリーナだった。
相手役も、
コールドも、
オーケストラも、
もっといえばチャイコフスキーも、
ただロパートキナのためにそこにある。
すべてを率いて先頭に立つ者、
すべてを前に、一番奥から登場する者、
すべてを足場にして、もっとも高みに座する者。
そういうオーラを発していた。
彼女が登場すると、他のなにものも、目に入らなかった。
ゆったりとしたリズムで、
丁寧に、厳かに、白鳥の化身として「動く」
ロパートキナのオデット。
にこりとも微笑まず、誇りと悲しみだけをたたえたまなざし。
通常オデットに抱く、たおやかさや守るべき存在といった弱弱しさはどこにもなく、
私は逆に、まがまがしさが忍び寄る感さえ覚えた。
「オデット=白=善」という刷り込みは間違いだったのではないか?
オデットこそ、ロットバルトに操られ、王子を誘惑しているのではないか?
王子はこの筋肉質な逆三角形の背中の悪魔に魅入られて、
取り殺されてしまうのではないか?
そんなことさえ感じた。
オデットを欲しているのは王子だが、
王子に迫り、圧倒し、追い詰めているのは、オデットだった。
このオデットも見事だったが、
オディールの時の軽快さ、俊敏さ、動と静のコントラストは
それに勝るとも劣らぬ輝きを放った。
「オデット」という重しをはずしたロパートキナは
自由に空を飛ぶがごとき解放感で、完璧なテクニックを披露。
こちらも見ごたえがあった。
彼女の舞台においては、
「白鳥の湖」という物語さえ添え物でしかなく、
観客はただロパートキナの
文字通り一挙手一投足にクギ付けだ。
その意味では、
幕ごとに繰り広げられるカーテンコールもむべなるかな。
今裏切ったオディールが、
今裏切られた王子と、にこやかにあいさつに出てきても、
許せる感じ。
歌舞伎みたいなものである。
みんなフィクションを見てるのは百も承知だし、
掛け声は「由良之助」じゃなくて「松嶋屋」
つまり「オデット」「オディール」じゃなくて「ロパートキナ」なのだから。
ロパートキナ以外で目を引いたのは、
一幕パ・ド・トロワを踊ったヤナ・セーリナ。
非常に踊りが大きく、かつ正確で華があった。
しかし、昨年見たボリショイの「白鳥の湖」に比べると、
マイリンスキー全体としての力不足を感じた。
好みの問題もあろうが、
「白鳥」のコールドが「ザッザッザッザッ」と軍靴のごとき足音をさせるのは
私としては非常に耳障りで興がさめた。
ロパートキナもヤナも、コトリとさえ音をたてずに着地していることを考えても、
演出や支持ではなく、力量ではないだろうか。
あと、伝統的なプログラムということで、
四幕の冒頭に私は今まで見たことがないコールドの踊りがあった。
白鳥と黒鳥(あるいはひな鳥)が一緒になって
いくつもの幾何学模様をおりなすのだが、
ここの音楽がまったく凡庸。
チャイコフスキーじゃないのでは?と感じた。
音楽にも流れがあり、筋があり、感情があることを、
改めて思う。
今回のマイリンスキーは、
全幕は27日の「白鳥」のみ。あとは12月のガラ公演を待つのみである。
*パンフレットを見て驚いたが、 指揮者が4人も帯同している!
 すごいことだ。
 私が観た11/27はブベリニコフ指揮、東京ニューシティ管弦楽団。
 マイリンスキー劇場のオーケストラの演奏は「イワンと仔馬」のときのみで、
 ゲルギエフがタクトを振る。

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