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「菅原伝授手習鑑」@大阪国立文楽劇場(1)通し狂言の味わい

竹本住大夫の引退狂言であり、
国立文楽劇場開場30周年記念公演でもある今月の演し物は、
「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅ・てならいかがみ)」。
それも通しです。
歌舞伎でもよく出る演目は
「車曳(くるまひき)」「賀の祝」と「寺子屋」で、
時々「道明寺」「筆法伝授→築地の段」が出る程度。
この前「花組芝居」がダイナミックに全通しをやってのけたのを除くと、
序幕に当たる「大内の段」と太宰府が舞台の「天拝山の段」は
歌舞伎でも文楽でも、私は初めて観ました。
通しのよいところは、
登場人物の人となりがよくわかるところ。
「寺子屋」の主役たち、源蔵や松王丸の苦悩がどこから来るか、
すごくよくわかります。
今回は、
「筆法伝授」での源蔵の血気にはやる振る舞いから、
何の罪もないその日会ったばかりの見知らぬ子どもとその母でも、
「お主のため」には斬って捨てるという激しさに一貫して響きました。
いつもは弱々しく聞こえる「せまじきものは宮仕え」の台詞も、
ちょっと違ったニュアンスに思えました。
大体、自他ともに認める筆法伝授候補筆頭だったのに、
ご法度の社内恋愛で全てパーになった人です。
その人が言う「せまじきものは」です。
筆法は伝授されても、勘当は解けない。
マックスお仕えしないと、自分の気持ちは汲んでくださらない。
ああ、せまじきものは宮仕え。滅私奉公だわ。
松王丸にしても、
自分が望んで藤原時平の家来になったわけではなく、
ただ三つ子が三カ所に振り分けられただけなのに、
時平への義と、名付け親の菅丞相への孝とに引き裂かれる。
実の親、白大夫もひどいなじりようで、言い訳にも聞く耳持たぬ。
自分の負ったマイナス点をはねのけるには、
子どもの首を差し出すしかなかったのね。
その松王丸が、叫ぶ「それにつけても桜丸が…」の悲痛。
俺は子どもがいたから汚名を注げたけど、
お前は何もできないままに死んでしまったね。
よかれと思って上司の恋の橋渡しをしただけなのに、
上司の判断の甘さに敵に付け込まれてしまった。
その無念さをもっとも理解できるのは、松王丸なんだ。
どちらにしても、「百姓出の」「牛飼いの」「下の下の」身分の人たちが、
貴人のために自分や子どもの命を捧げなくてならぬまでに追い込まれる
そういう無念さ満載。
菅丞相についてや大夫・人形遣いなどについては、改めて書きますね。

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