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シネマ歌舞伎「日高川入相花王」

美しい人を見て「お人形のようだ」と表す言葉がある。
人形を見て「生きているようだ」と言うことがある。
では、
人形の役をやっている人を見て、
「まるで人形のようだ」それも
「生きているように動く文楽の人形のようだ」というのは、
何をどう説明していることになるのだろう。
裃姿の尾上菊之助は、人形遣い。
人形の役は、坂東玉三郎。
人形遣いの菊之助は、玉三郎演ずる人形の背後にまわり、
ぐっと人形(=玉三郎)の帯の根元を左手でつかみ、人形を支える。
だらりの帯を上手く使い、
左手の手元をかくしつつ、時に右手で人形の操作をしているような感じを出す。
もちろん、玉三郎は自分の足で歩いて移動するし、
仕草も自分から動いているけれど
黒子も2人控え、さながら文楽の布陣である。
玉三郎は、
表情を変えず、身振り・手振りで感情豊かに謡のセリフを体現する。
その体の動きが、
精巧にできた人形そのもの。
マルセル・マルソーに通じるものがある。
「きれい」「うまい」を通り越して、「そら恐ろしい」。
本当に、文楽を見ているような錯覚に陥る。
ある時は、「まるで生きている人間」のように、
ある時は、「人形だからこそ」の激しく直線的かつ痛みを知らない人形だから可能なひねり…。
でも、実際は、生身の人間の業…。
場面は紀州・日高川の渡し。
道成寺に逃げ込んだ安珍を追い、日高川までたどり着いた清姫(玉三郎)が
一刻も早く川を渡って追いつきたいと、
船頭(坂東薪車)をせかす。
ところが船頭は、先に渡した山伏から、若い娘は乗せてくれるなと釘を刺されている。
(薪車の人形振りもものすごくユーモラス。
 メイクも濃いし、眉は人形のように動く仕掛けをとりつけていて、一瞬人とはわからない)
川べりで、邪恋の炎に身を焦がす清姫。
ダイナミックに人形を動かす(ように演じる)菊之助の仕草が見事。
玉三郎も手の震え、首のよじれ、乱れ髪でほとんど連獅子かっていうほど上下に振れて、
これ、人間の仕草とは到底思えない。
そう、何かに憑かれたような激しさ。
そしてとうとう、美しい顔も一瞬鬼に!(口元だけ、仕掛けをつける早業)
船頭はそれを見て恐れおののき、船ごと逃げ去ってしまう。
すると清姫、
意を決して川へ飛び込む。
ここの美術が素晴らしい。
それまでは左に土手、右は川で船頭の船が浮かんでいたが、
その船は上手に去り、
清姫が土手から飛び降りた途端、青い布が幾重にも現われて、川の水を表す。
清姫はその布と布の間を溺れるように漂う。
布の動きが、お囃子ともあって非常にリアル。
こんなにデフォルメされて、本当の水も、土手も、何もないのに、臨場感!
あの布を動かしている裏方の人たちの技の高さを痛感する。
両手を使って、波をかきわけ、もがき、沈み、また浮き上がる。
そう、
人形は一人で飛び込んだ。
そこには人形遣いはいないのだ。
ひたすら対岸を目指しながら、人形はいつしか人間となり、かきわけ、もがき、沈み…、
が、それを幾たびか繰り返した次に浮かんだ清姫の顔は、般若の顔になっているではないか!
え?と思うとまた沈む。
再び浮かぶと、玉三郎。
三度沈み、すぐに浮かぶと、やはり般若。
どういう早業で、面をつけたりはずしたりしてるんだろう??
…と頭の中がグルグルまわっているうちに、
あっという間に衣装まで変わる!!
清姫は若い娘から、銀のウロコが輝く大蛇になったのだ…。
大蛇となって対岸にたどり着いた清姫は、
大木にするすると上る。
途端、背景の幕が切って落とされ、
春爛漫、桜満開の山の中の、道成寺を清姫が望む。
上から睨むその顔は、
すでに人形ではなく、人間でもなく、怨霊なのだ。
歌舞伎とは、倒錯である。
男が女を演じている。
そこに、人が人形を演じる。
歌舞伎で人がやるところを人形を使ってみせる文楽を、
歌舞伎がストーリーだけでなく、文楽そのものを模して演じる。
倒錯だ。
夢幻の世界だ。
非日常だ。
場面の切り替わりといい、ストーリーを中断させない早変わりといい、
歌舞伎って、エンターテインメントのすべてが詰まっている。
そこに表現される人間の業の深さ。
自分の胸の中の般若を見透かされる恐ろしさ。
見世物小屋の地獄めぐりの、百万倍のおそろしさと美しさが、そこにある。
映画だから、
幕が引かれると、それでおしまい。
スタンディングオベーションでアンコールを要請したい気持ち。
まことに、歌舞伎の伝統はものすごい。
「たったの」30分に、思いっきり打ちのめされました。
*実際の舞台とシネマ歌舞伎と、どちらもご覧になった方のブログを拝見すると、
 川に溺れて大蛇に変身する場面は、実際の舞台ではもう少し冗長だということです。
 どのような編集がされているのか、本物を見ていないからわからないところ、あるんですねー。
 でも、謡はずっと続いているし、どう編集されてるんでしょう??
 「映画の方がすごかった」という、その編集も見事です。

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