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平成中村座「仮名手本忠臣蔵」(2)

忠臣蔵の主人公は、大石内蔵助。
だから、内蔵助が出てくるまでは、序盤ということになります。
序盤のハイライトは、ご存知「松の廊下」。
浅野内匠頭が吉良上野介に笑いものにされて、
とうとう殿中ご法度の刀を抜き、額に傷を負わせてしまいます。
浅野内匠頭は切腹を言い渡され、お家も断絶、城明け渡しとなるのですが、
「内匠頭、なんとかガマンできなかったのか?」
と思っている人、いませんか?
実際、
「あんなバカ社長がいたら、社員はたまったもんじゃない!」
と、内匠頭を世間知らずのぼんぼん社長に例えて、酷評する人、多いです。
クライアント(上野介)のイヤミな態度が腹に据えかね、
自分さえ頭を下げればそれで丸くおさまるのに、
キれて刃傷沙汰となったがために会社(藩)がつぶれてしまう。
それによって、たくさんの社員(藩士)とその家族は路頭に迷う。
「そんなヤツにリーダーの資格なし!
 ましてや、血判状をしたためて、あだ討ちする価値など、全然なし!」
いろいろとストレスの多い人間関係の中、
たとえ全く責任なくても「ご無理ごもっとも」が日常的な社会。
ひたすら頭を下げ続けることも一度や二度ではなかった、という人だったら、
そんなふうに思うのって当然ではないでしょうか。
かくいう私も、
今までいろいろな「忠臣蔵」を見ていますが、
浅野内匠頭に感情移入したことって、あまりないですね。
ところが、
今回は「なるほど~、こりゃ仕方ないかも」と思わせるものがありました。
さすが歌舞伎っていうか、
何百年も続いているお芝居っていうのは、
話にムダがなく、かつ人を動かす偶然と必然の配置が絶妙!
「仮名手本忠臣蔵」の場合、
最初にキれるのは、塩冶判官(=内匠頭)ではなく、
彼と同様に御馳走役を仰せつかった桃井若狭之助。
高師直(=上野介)の癇にさわり、彼は無視されたりイジメられたり。
若気の至りというか、単純というか、
瞬間湯沸かし器よろしく、もうつかみかからんばかり。
「殿中」ではなく「境内」ではあったものの、刀の柄に手がかかります。
そこを割って入ってとりなしたのは、
誰あろう、塩冶判官なんですよ。
この人、けっこう落ち着いてる人なんです。
でも若狭之助が師直につっかかったことは、すぐに噂になります。
若狭之助も、師直に恨みをはらしたい、とやる気マンマン!
危機感を抱いたのは、桃井家の家老・加古川本蔵です。
この人、若い主人には「そうです、バッサリおやんなさい」と励ましておいて、
自分は師直さんのところに一直線。
たくさんの「おみやげ」を持って、
「よろしくお願いいたします」と持ち上げること持ち上げること。
師直の家来にも、袖の下を欠かしません。
たいそうなおみやげに気をよくした師直、
松の廊下で若狭之助に出会うと、ヒザつき両手つき、平謝り。
180度態度が変わった理由を知らぬ若狭之助は、拍子抜け。
「仕返し」の気持ちも失せてしまいます。
そんな様子を衝立の陰から見守るは、加古川本蔵。
好首尾に胸をなでおろします。
いや~、いい家来だ~!
人の心の機微を知り尽くし、
カネを使うTPOをわきまえている。
こういう人が番頭に控えていると、ぼんぼんも会社も安泰だね~。
では、
塩冶判官の場合は?
からんでくるのが、「顔世御前」という塩冶判官の奥さんです。
昔、女官をしていたという顔世さん、
賢女であり、美女であり、なかなか色っぽい人妻でありました。
師直さん、
顔世さんにラブレターなんか出しちゃってるの。
「奥さんにソノ気があるなら、ダンナの面倒ちゃんと見てあげるよ」みたいな。
いわゆるパワハラです。
顔世さん、
ラブレターをダンナに見せて「ひどいのよ、あいつ」と
すべてを明らかにしちゃおうか、とも思うんだけど、
コトを荒立てるのもよくないかなー、と、(このへん賢女?)
ダンナには言わず、
「マジメな女は浮気しないものです」的一般論の和歌を送るのよ。
すると師直、これをイヤミととったか、
とにかくフラれちゃったわけで、頭に血がのぼり、
「顔世、ダンナにチクったな~!」と早合点、
お役目を果たそうと目の前に控えている塩冶判官を見るなり、
「お前、オレのこと鼻で笑ってるだろ?」とネチネチ難くせつけ始める。
そうとは知らぬ塩冶は、師直の「乱心」のわけがわからない。
ポカンとしちゃったり、ジョーダンかと思ったりで落ち着き払ってるから、
「涼しい顔して、とぼけるな!」と師直はますます怒り心頭。
イジメもエスカレートして、
一国一城の主を捕まえて「井の中の蛙」、「鮒侍(ふなざむらい)」とののしる始末。
一度はガマンの限界に達し、刀に手がかかった塩冶も、
「ここで刀を抜けば、お家は断絶ですぞ」と釘をさされ、
「失礼の数々、お詫び申し上げる」と歯をくいしばって頭を下げます。
ところが師直はいよいよ図にのる。
なおも口さがなくいびりまくったために、
とうとう塩冶、プッツンしてしまうのでした。
ここで話の作りがうまいなー、と感心したのは、
若狭之助には加古川本蔵という番頭さんがいたけど、
塩冶判官には誰もいなかった点。
彼の懐刀である大星由良之助(=大石内蔵助)は国元、
この日、お供をするはずだった早野勘平は、
なんと腰元といちゃついて遅刻、という設定。
若狭之助に比べ、塩冶はわりと判断力のある名君だったと想定されます。
その「過信」「油断」が、
この悲劇につながったということが、リクツというか感情でわかる仕組み。
また、
通常吉良上野介はとにかく金に汚く、
質素倹約励行で賄賂を好まぬ浅野にいやがらせをした、
また、「赤穂の田舎侍が」という上から目線でいじめた、
というのが通常のキャラだけど、
ここでは
師直はののしりながらも自分のことを「東夷(あずまえびす)」などと名乗り、
顔もけっこうワイルドにメイクしてあることもあって、
師直=関東武士の田舎者
塩冶=関西のみやびな文化人
といった構図が浮かび上がってきます。
つるんとした白いお顔(そういうメイク)の塩冶判官に向かい、
「なに澄ましてやがんだ!! 関東の田舎者とは話もできないか?」みたいな遠吠え。
コンプレックス丸出しです。
ほら、よくいるじゃないですか、
「自分は何一つ悪いことしてない。だから何もこわくない」みたいな人。
塩冶さんってそういう人だったんじゃないかしらん。
たしかにいい人なんだけど。正しい人なんだけど。
カワイクないっていうか、とりつくシマがないっていうか。
なーんか、感情がないっていうか本心が見えないっていうか。
師直、「こいつがベソかく顔を見たい」と思っちゃったのかも。
それでよくあることだけど、
じっとガマンしていた人は、いったん爆発したらどこまでも行きますからね。
塩冶も、怒らせたらタイヘンな人物だったんです。
何せ、「自分は何も悪くない」んだから、どこまでも行きます。
刃傷沙汰はいわゆる確信犯、となれば切腹なんかヘでもないですが、
「この無念をはらせ~!」といまわのきわに由良之助とアイコンタクト、ですからね。
マジメな人は、コワイです。
「殿中でござる!」のシーンにこめられた様々な人間模様。
本当の「事件」で、
浅野が吉良に切りつけた本当の理由と離れ、いろいろ脚色しているんでしょうが、
だからこそ、
観客の1人ひとりが「なるほど」「そうか」「わかる」と
共感できるお話に仕上がっているのではないでしょうか。
明日は、
切腹を命ぜられた塩冶判官が「由良之助はまだか?」と
大星由良之助を待ちわび、
かけつけた由良之助と対面する場面について。
「アイコンタクト」もそうですが、
命が尽きた塩冶判官の遺体を丁寧に始末する由良之助の仕草が
また素晴らしい!
泣けました。
そして、
ヘンなこと考えちゃった。
どんなヘンなことかは、また明日!

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