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海老蔵復活「七月大歌舞伎」(夜の部)@新橋演舞場

歌舞伎に関わる仕事をしているのだから、
よかれ悪しかれ海老蔵の復活を目撃しないわけにはいかぬ、と
思って足を運んだ夜の部。
「春興鏡獅子」
海老蔵の女形を初めて美しいと思った。
今回の復活公演、毒気が抜けすぎてつまらない役者になった、との
厳しいご意見もあるようだが、
その「毒気」の抜け加減が、弥生にはちょうどよかったようで、
ゴツゴツした感じがなく、伏し目がちな表情もなよやか。
裾さばきが多少雑にも思えたが、最後まで観客を引きつけるものがあった。
獅子の精になってからは、
うーん、この前仁左衛門の神々しいのを見たばかりだったので、
「人と神の差」というより「女と男の差」で見せた感じでしょうか。
毛ぶりも、仁左衛門と同じくらい背筋が使えてなくて、
中村屋の3人の毛振りを観たものとしては、ちょっと見劣りしましたね。
たくさん振っても、1回1回が完璧でないと、感動しません。
胡蝶の精(玉太郎、吉太朗)のうち、名前がわからず大変失礼ながら、
片方の静と動のめりはりの効いた舞が素晴らしくて、
そちらのほうをじっくり眺めさせていただきました。
「江戸の夕映え」
「暫」など、荒事では海老蔵の「声」に注文をつけてばかりの私だが、
世話物となると、彼の声はたちまち素晴らしく思えるから不思議だ。
澄んでよく響き渡る。
また、動かない芝居に存在感がある。
第三幕で、ゆっくりと酒を飲みつつ、許婚お登世の噂話に聞き入るところ。
ちょっとした首の動かし方、目の泳ぎ方、など、秀逸。
その噂話を一人でしゃべりまくる萬次郎とか、
礼儀正しいが仏頂面でお客にあいさつするお登世の母・家橘など
この芝居は脇をかためる人々がよい。
なるほど三津五郎丈のいうとおり、世話物とはチームワークである。
ことに
お登世に扮した中村壱太郎が光った。
ご維新で零落しても、旗本の娘としての気品ある所作と発声が見事。
父・掃部(左團次)との二人の会話など、
襖を開けて茶を持つ、茶を置いて襖を閉める、といった所作の流れから始まり、
現代の時間の流れの感覚からすると、途方もなくゆったりとした場面ながら、
その一つ一つが美しいのと、
その一つ一つが「旗本の娘」をつくっているという意識とが
私たちを魅了せずにはいられない。
ここをまったく退屈させずに見せることによって、
ラスト、小六(海老蔵)との無言の見つめ合いに、お登世の心が生きた。
それにしても、
この「江戸の夕映え」、大仏次郎作で昭和28年初演。
明治維新で江戸が東京になってしまった「賊軍」側と、薩長に占領された江戸庶民は、
そのまま太平洋戦争で負けた日本、アメリカ進駐軍に占領された東京である。
生きて還るつもりもないのに「死ねなかった」思いで新しい人生を踏み出せぬ男を、
そのまま小六(海老蔵)に重ねている。
大吉(團十郎)が船頭たちに言う「戦とは、女も子どもも傷つくもの。
なまのいくさを知らないものは、軽々しく(戦争しろなどと)言うもんじゃねえ」というセリフも含め、
初演の観客はどのように聞いただろうか。
外国人のものさしで、あれはいけない、これはいけない、と
日本人の今までの伝統がことごとく禁じられたことへの揶揄も多々含まれる。
大体にして、歌舞伎そのものが一度は禁じられたわけだし。
「昔」の価値観に固執して「今」を生きられぬ者(小六)に意見しつつも、
「今」に迎合して「昔」のよさを足蹴にする輩にも釘を刺す、
歴史大家の大仏次郎らしい芝居だと思った。
この演目を海老蔵復活を願う父團十郎の思いと重ねる向きは多いが、
私はそれよりも、
自分が今ほど「負けた側の気持ち」に寄り添ったことはないと感じた。
今回の東日本大震災とは、
明治維新や太平洋戦争の敗戦に匹敵する国難なのだと改めて思う。
今までのすべてがひっくり返ったような中でも、私たちは生きていかなければならない。
前向きに、しかし誇りを捨てず。
そう、励まされているような気がした。
「吉例寿曽我」
ごめんなさい。これは、顔見世とか、新春とか、「寿」なときにやるといい。
ずずっと全員がせり上がってきたときは、まるでお人形さんのようできれい。
そういう楽しみが、この演目なんだと思う。
それが「豪華メンバー勢揃い」だったりすると、ゴージャスなんでしょうね。
それに引き比べると、
今回は小粒すぎて、ちょっと……。
右近と猿弥の立ち回りも、緊迫さに欠け、豪快さにも欠け。
がんどう返しだけが見ものでした。
今回、昼の部はチケットとっておりません。
海老蔵の富樫は、あまり評判がよくないですね。
いきなりいい役者にはなれぬもの。
それが荒事となればなおさら、
誰でもが喝采に堪えられる演技ができるわけではありません。
でも、
海老蔵は、いつかその日がくるのではないか。
来てほしいと思ったし、そこまでがんばってほしい、と
思いました。

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