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「Calli」

東京・天王洲アイルにある銀河劇場(旧アートスフィア劇場)で現在公演中の
「Calli」を観てきました。
この作品を観ようと思った理由はおもに2つ。
一つは、今年2月に観た「タン・ビエットの唄」がめちゃくちゃよかったので、
これをやったTSミュージカルファンデーションの作品なら、間違いないだろう、と思ったから。
二つ目は、宝塚を退団した朝海ひかるが主演するから。
彼女(彼?)の退団前に観た舞台で、
彼(彼女?)の上げた長い脚のしなやかさにうっとりしたもんで。
この「Calli」、あの有名な「カルメン」の話をなぞっているのですが、
視点を変えて作っています。
小説「カルメン」の作者メリメの息子であるジャン・ピエール・メリメがまず登場する。
扮するは今拓也。
自分の父親が小説を書いてから30年、ビゼーが「カルメン」をオペラにした。
オペラの「カルメン」を見たジャンは、その「カルメン」像に違和感を持ち、
初演から3ヶ月たったある日、ビゼーと会って「カルメン」について二人で話しをする…。
ビゼー役は、戸井勝海。
話の中に出てくるカルメンが朝海ひかる、ホセは友石竜也。
朝海は、先ほども触れましたが宝塚の男役トップで、2006年12月に退団。
友石は四季を2004年に退団して、これが初のミュージカル。
彼は「ライオン・キング」でシンバ役を1600回やったそうです。
カルメン、ホセとも、存在感・声量はあるんだけど、
大きな声を出そうとしすぎるというか、歌に潤いがなくて、そこがちょっと不満でした。
ロマ(いわゆるジプシー)の話が大半なので、
荒々しかったり、挑戦的だったりするのはかまわないのだけれど、
声の質が一本調子だったのが気になります。
それに比べ、今拓也のソロが文句なく素晴らしかった。
聴いていて、気持ちがいい。
体が浮いていくような、いわゆる「天にも昇る心地よさ」なのだ。
私が初めて今さんを観たのは、昨年の「MA(マリー・アントワネット)」。
彼はフェルゼン役だったんだけど、
再演の中、彼は初の抜擢だったこととか、他の役者さんたちがよかったこともあって、
「もうちょっとがんばってネ」という評をこのブログで書いた。
その時に比べ、なんと感情細やかに、美しい声を披露してくれたことだろう。
幅広い音程を滑らかに往来、
特に高音は、今回朝海さんより高い音まで出ていたのでは?
終盤、
朝海・友石でデュエットした歌を、直後に今・戸井でデュエットする場面がある。
その時、すべてが氷解するのだ。
この話の主役は、カルメンではない。
ジャンなのだ。
TSミュージカルファンデーションの主宰者・謝珠栄さんは、今さんに言っている。
「ジャンは、カルメンという作品に向き合ったときの私やで」
単なる狂言回しのように思われたジャンこそが、もっとも重要な位置を任されている。
それにふさわしい人選、それにふさわしい実力が、持ってこられた、と。
戸井勝海のビゼーも、非常に重要な役。
この二人の力で、新作ミュージカル「Calli」は求心力を得た。
男性陣の中、紅一点の朝海は、さすがの存在感。
鋭いまなざし、しなやかな体で舞台をひっぱるけれど、
「はすっぱな女」というより、「かっこいい男」的なしぐさも見える。
瞳をそらさず見つめあいながら踊るフラメンコでは、
決闘でもしそうなほどにまなじりを決し、ちょっとこわい。
色気がない、というわけではなく、女らしいカルメンはうまく演じられていたのだけれど、
ふとした拍子に「オトコ」が出てしまうのか。
まだ男役から女優への切り替え期間といった感じで、
特に声については、音域、発声、表現力など、問題が多いような気がした。
私をクラクラっとさせたコムさんが、女優としても図抜けて光り輝く日を待ち望む。
男性陣では、
片目のリーダー・ガルシアを演じた天宮良に一票。
ミュージカルに出演するのは「100年ぶり」とジョークをとばすほど遠ざかっていたというが、
声の艶、身のこなしなど、非常に魅力的だった。(足のかき鳴らし方は、ちょっと大きすぎだったけど)
イギリスの高官・ヘンリー役の野沢聡にも一票。
一人だけコメディタッチな役作りで、あまり歌の出番がなかったが、
最後の方でようやくソロで歌う機会がある。
その歌がよかった。のびやかで説得力のある歌声だ。
これからの舞台にも注目したい。
最後に、この新作について。
ネタバレになるので詳しくは書けないけれど、
最後の最後に明らかになるビゼーについての発想はすごいと思った。
なるほど、それで冒頭のあの場面があるのねー。
しかし、
全体的に説明口調がすぎて、こなれていない歌が多かった。
ジャンとビゼーのやりとりはある程度説明的であってもしかたないけれど、
カルメンやホセには、
もっと物語を自由にたゆたっていてもらいたかった気がする。
「新しい視点」を意識しすぎたゆえに、話が難しくなりすぎた。
踏み込んで言わせてもらえば、終盤の「種明かし」も言わずもがな。
「えーっ?? オレ、そんなことには全然気づかなかったよ」という
ホントにおバカな男の話がないと、
この劇自体が成り立たない、という事情はわかるのだが、
それにしても、あの「別のカメラでもう一度」的な演出は、どうなんだろう。
男と女の間には、
「わかっていても、わかりあえない」という時がある。
奇しくもカルメンのセリフにあった、
「オオカミと犬は一緒には生きられない」ように。
最初から、それを「肌」でわかっていたカルメンと、
乗り越えられる、乗り越えてみせる、と「頭」で思っていたホセと…。
そんなやるせないラブ・ストーリーを期待していたから、
今回は、評が辛口になってしまったかもしれません。
あしからず。

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