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永井愛x野田秀樹アフタートーク@紀伊国屋ホール

「歌わせたい男たち」の終演後、
作者の永井愛氏と野田秀樹氏とのアフタートークがありました。
野田さんは、今回初めて「歌わせたい男たち」を観劇したとのこと。
「今日観にきている人って、大体この問題をわかっている人たちなんでしょ。
 たとえば、これを
 観て腹を立てたり、席を蹴って出て行っちゃったりしそうな人の前で見せるっていうのも
 おもしろいんじゃない?」
というところから始まったこのトーク、
やっぱり野田節炸裂でしたねー。
とても印象深かったのは、
「ボクは世代的に、日教組が強い時代の学校にいたから、
 この問題のことはわかってるし、そして、
 自分は今は勝手にクリアしているわけだけど、
 じゃあ、若い人たちはどうなんだろう?
 この問題に関する論点ってきっとボクたちとは違うはず。
 そのあたりをもっと聞きたかった。
 役でいえば、あの若い先生の立場ね」
という言葉。
彼は、自分と違う考えに対して、ものすごくオープンだし関心を持てる人なんだな、と
改めて思いました。
それは、岸田國士戯曲賞の選考の過程について話が及んだときにも感じられた。
永井さんは、自分の戯曲「兄帰る」が受賞したとき受賞理由を見たら、
野田さんと井上ひさしさんのほかは、誰もほめてなかったので、
よくこれで受賞できたな、と思ったといいます。
講評に立った野田さんが「ボクとは正反対の戯曲だけど」推したと言ったその言葉は、
彼の演劇観をよく表していますね。
「演劇はいろいろあっていい。
 ボクも芝居好きですから、いろいろ観るし、意外なものも好き。
 世界観はそれぞれ違ってていいと思う。
 問題は『質』だと思うんだ」と野田氏。
だから、趣味が違うという理由から落とすことはないというのです。
永井氏も、岸田賞の選考委員になって3年。
彼女が先輩選考委員の野田氏を見て驚いたのは、
「野田さんって、もっと感覚的にいい悪いを決める人かと思っていたら、
 どの候補作品にもたくさんメモ書きがはさまっていて、
 こんなに緻密になさる人なんだ、と初めて知りました」
すると野田さん、
「選考委員には別役実さんとか井上ひさしさんとか、
 重鎮がいらっしゃるでしょ。
 若い人の作品…たとえば松尾(スズキ)とかケラ(リーノ・サンドロビッチ)とかを推す時に、
 もしそういう重鎮たちが反対にまわったら、
 彼らを理詰めで説得できないとダメなわけですよ。
 ここは、こういう構造になってる、とかね。
 それで身についたやり方かなー」
野田さん、台本はかなりの数読んでいる、ということでした。
永井さんの二兎社の舞台も、
実際に足を運んで観に来たのは今回が2回目だけれど、
「台本は読んでます。『ら抜きの殺意』は面白かった」とか。
永井さんのお話の中で心に残ったのは
「言いたいことがひと言でいえるのなら、演劇にする必要はない。
 それだったらビラでもパンフレットでも足りる」という言葉。
「歌わせたい男たち」は、「日の丸・君が代問題」と片付けられてしまいがちだけど、
主義・主張だけで書いたわけではない。
もっと広がりを持たせたい。
だからこそ「歌いたくない男」ではなく「歌わせたい男たち」をメインに据えたし、
あるいは「何のこと?」の女を登場させたわけで、
観る人によって感じることは違ってくるはず、と。
「アナロジーというか、相似形というか、そういうものを含んでいること」が
演劇の素晴らしさなんですね。
だから「日の丸・君が代」が「喜劇」になっちゃう。
そこが「ビラ」とはまったく性質の違うところなんでしょう。
「広がり」という点で、
野田さんはこの舞台の言わんとすることは承知の上で、
また違った視点からコメントをしました。
「人間っていうのは『信条』ができてしまうと、なかなか変えられないよね。
 でも今の世の中、もしかしたら『信条を変える』ということの大切さもあるのでは?
 たとえばアメリカもイスラム原理主義も、信条を曲げることのできない人々でしょ。
 『変えること』も大切じゃないかな」
この「歌わせたい男たち」が喜劇として成立するのは、
「ピアノを弾くという行為は外部的な行為なので、内心とは結びつかない」というヘリクツで
君が代を弾きたくない人に弾かせようとする「歌わせたい」男たちも滑稽だけど、
「ボクが君にメガネを貸して、ボクのメガネをかけた君が君が代を弾くのは耐えられない!」という
「歌いたくない」男たちの滑稽さも際立つからだと思う。
人間って、滑稽だよね。愚かだよね。
喜劇にしろ、悲劇にしろ、
演劇って、そのことを見せてくれるものなのかもしれないな、と妙にナットクしてしまいました。
アフタートークは劇のセットをバックにそのまま行われました。
「けっこう狭いんだね、この保健室」(野田)
「ウソッこ遠近法なんですよ、このセット」(永井)
ふーん、そうなんだー。
美術さん(大田創)の勝利ですね。
「もし私がこの劇に出演してくださいって頼んだら?」という永井さんの問いに
野田さん、
「やりますよー。ボクがやるなら、大谷さん(校長)か近藤さん(拝島)だろうけど。
 もう少し若かったら、あの若い教師の役がやりたいなー」
「戸田さんの役(ミチル)は無理」と言って笑いをとっていましたが、
よくよく考えてみると、できそうですよね。
「The Bee」の英国バージョンで演じた妻の役は、本当に素晴らしかったもの。
男であることも、年齢的なことも感じさせなかった。
野田さんのミチル、どこまでデフォルメされるか見てみたいなー。

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