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「あ・うん」@百年読書会


あ・うん新装版
「百年読書会」は、
朝日新聞上で月一回課題の図書を決め、
作家の重松清氏とともに感想を言いあっていく、という
新聞読者を巻き込んだ読書会。
課題の本を選んでいるのは、誰なんだろう?
重松さんかな。
「斜陽」→「楢山節考」→「あ・うん」と、
選書の基準がよくわからん。
敢えていえば、「家庭」「家族」なのかしら。
文部省選定の「良書」とはちょっと違った、
多少ブラックの利いたホームドラマ。
そんな小説たちである。
第3回の「あ・うん」も、
一筋縄ではいかない。
男と男の友情、夫婦の絆を
まっすぐで清廉な表向きと、隠微でどろどろした内面を同居させて描く。
著者の向田は、
読者が抱くであろう胸のざわつきを、
「絶対に解消させないからね!」といわんばかりに
決して本心を明かさない女たちの不気味な含み笑いと、
男たちの瞳の中に置き去りにしたあきらめとを
絶妙な「やじろべえ」の上において物語を進行させる。
向田を天才的だと賞賛する同業者は多い。
私も、
その描写力、鮮やかなシーンのしつらえ方には舌を巻く。
時折見事にさしはさまれる
登場人物たちの交わす「ジョーク」な会話は、
本当に絶妙で、思わず吹き出してしまう。
けれど、
これって「ブンガク」なのかなー。
「シナリオ」とは違う形態にはなっているけれど、
やはり映像を前提とした作品ではないか、
向田の頭の中で、一度映像化されたものを、ノベライズしたもの、
という印象がある。
その証拠に、
金持ちで、遊び人で、無二の親友・水田を大事にしながら
その親友の奥さんを好きで好きでたまらない男・門倉は
最初に出てきたその1行目から、どこをどうみたって杉浦直樹だし、
その門倉の夫人で、
夫の遊蕩の数々も、本当は水田の奥さんのことが好きな夫の心のうちも、
ぜーんぶお見通しだけど顔色一つ変えない君子は、
やはりどうしたって加藤治子でなければいけない。
大人の階段を昇ろうとしている内気な、しかし大胆な水田の娘は
岸本加世子だ。
口をすぼめ、大きな目を見開いて、
父と母と門倉の、プラトニックだが隠微な三角関係をじっとみている。
穏やかで、時間とお金の豊かさ加減がちょうどよい具合の
昭和初期・中流家庭の平和な時間が
金魚鉢の中の騒動で右にゆれ、左にゆれしている間に
気がつけば戦争は進んでいて、
町の景色は灰色に、
人の気持ちも未来が描けなくなっている。
そんな絶望の中に咲く、
「恋」という名の真っ赤な花の狂い咲き…。
「激情」という、すべてをのみこむ洪水の潔さ…。
最後のページを終える私の脳裏には
少しゆったりとして、
少しさみしい、だけど長調の、
エンディング・テーマが流れる。
やっぱりテレビじゃん。
私の脳内では
みごとにテレビドラマに変換されて
この本は消化されていきました。
どっちが上とか下とかいうことではありません。
私が「小説」に求めるものとは違い、
「ドラマ」に求めるものと合致した魅力が、
この本の中に詰まっていた、ということです。

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