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野を駈ける光(虫明亜呂無の本2)

野を駈ける光 虫明亜呂無の本・2 玉木正之編a:楽オク中古商品
今手元にある虫明亜呂無の本は、5冊。
そのうち買ったのが2冊で図書館のが3冊。
図書館の返却日が1/15なんで、
まず図書館の本から読んでます。
最初に読み終わったのが「野を駈ける光」
編者はスポーツライターの玉木正之氏である。
彼自身が虫明氏の文章に触れて感激したのが始まりで、
過去の作品を読もうと思ったらほとんどが絶版になっていることを知って
なんとか彼の作品をもう一度若い人に読んでもらいたい一心で
この本は編まれた。
すでに、虫明氏は病床にあり、
全3冊の最初の1冊が出たところで、氏は帰らぬ人となった。
今をときめくスポーツライターの玉木氏をして
「自分の拙い文章を綴るよりも氏の文章を復刻することこそ
重要な仕事であるという思い」にかられた、という。
それほど、
虫明氏の文章は情熱に満ちている。詩があふれている。
情緒的であると同時に論理的。
小説的であるとともに最高のノンフィクション。
競馬場の向こう、霧にけむる緑を1枚の絵を舐めるがごとく描写したかと思えば、
その地の地形やら歴史やら、洪積世まで遡ってはばからない。
かと思えば土のすえた匂いから少年時代の雨の遠足の述懐にとび、
あるときはパリのモンマルトルのホテルの一室にさえ話が及ぶ。
しかし、
圧倒的なストーリーを持つのは馬である。
競走馬の、競馬場の、それを見る観客の、
細密な解剖学や造園学の講義のようでもあり、
馬と調教師が織り成すドラマでもあり、
馬とファンとの間にある恋心でもある。
どうしてこんな文章が書けるのか。
読み出すとのめりこんで電車を乗り過ごしてしまう。
JRAも、大量に人気俳優をつぎこんでCMやるばかりじゃなくて、
素晴らしい馬の走りや競馬場を背景に、
虫明亜呂無のエッセイを流せばいいのに…。
行きたくなるよ、競馬場に。馬を観に。競馬をしに。
競馬の話だけでなく、スポーツの話もある。
女性スポーツについてのくだりが秀逸。
「女」の強さ、たくましさこそが女性の生命力であり、
それこそが本来の女性の魅力なのだという
一般の男目線とまったく異なる分析は、
書かれたのがまだ札幌オリンピックやミュンヘンオリンピックのころだと思うと、
なんと先見の明があったことだろう。
始まったばかりの女子マラソンについての記述なども
今の女子スポーツの隆盛を予言するかのようだ。
ほかに「みんおん」や「レコード芸術」に掲載された
演劇・オペラ・クラシック音楽についての記述もある。
戦前からクラシック音楽に親しみ、
ベートーヴェンの全曲を所有したいと少年時代に決意したというくらい
この分野にも造詣が深い。
その上、常に順風満帆な人生を歩んできたわけではなく、
文章の端々に、世の中への恨みのようなものが現れる。
そして、
売れっ子な分、毎夜毎夜徹夜の続く仕事ぶり。
その合間をぬって、全国の競馬場へ、牧場へと向かう、
その競馬に対してやまぬ熱情……。
恐るべし、虫明亜呂無。
まだ数日なのに、
「虫明亜呂無になる」宣言したことを撤回したくなるほどだ。
でも、がんばるぞー!
とにかく、今は読みまくります。
一つだけ。
編者の玉木氏が虫明氏に傾倒し始めたのは1980年くらいらしい。
私は1974年だー! 私のほうが早い。それだけです、ハイ)

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