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「悪魔のリズム」

イラク戦争で、
アメリカ軍人がイラク人捕虜に虐待を加えていたというニュースは、
非常にショッキングに伝えられた。
特に、加害者に女性がいたという事実は、
にわかには信じがたいという印象さえもった。
人間に虐待し、それを自ら映像に収め、
武勇伝や勲章のようにひけらかせる神経。
戦争は、人間の神経を、理性を、善悪の判断を、
ここまで麻痺させ破壊することができるんだ・・・。
イラク本土ではなく、
アメリカに近いキューバの一角に、
悪名高き「グアンタナモ収容所」がある。
アメリカ本土でもなく、イラクでもないこの地で、
収容された被疑者たちは、やはり「何でもあり」の「尋問」と、
劣悪な環境に晒されているというニュースも、
見たことがある。
この映画「悪魔のリズム」は、
そのグアンタナモから「脱出」した1人の男が、
キューバという小さい島に隠れ棲みながら
大きく乖離してしまった心と体を一つにするまでの物語である。
行きがかり上、かくまってもらうことになったダンサー・マヌエラへの思慕、
彼を脱出者と知りながら、徐々に心を奪われていくマヌエラ、
マヌエラと若き日の妻をほとんど同一視して彼女を援助、
二人の関係に嫉妬する謎の老紳士・グイド。
夢の中で思い出される虐待の横行、
収監された檻の中で、達観した哲学を呟くアラブ人、
なぞの渦巻き、
そして、辞書・・・。
収容所という、
キューバ(島)という、
マヌエラの部屋という、
鳥かごの中でもがく男。そして・・・
えーーーーーーーーーーーーーーー?????
っていう最後のどんでん返し。
何なんだ、一体・・・・・・という映画だった。
「ドラマとは、主人公が最初に抱いていた気持ちが、
物語の最後に変化すること」だという。
嫌いだったものが好きになったり、
わからなかったことが解決したり、
不幸だったのがハッピーになったり、
ある経験をして一つオトナになったり。
この映画の原題は「ガンタナメロ(白日夢)」だが、
主人公が「白日夢」から醒めたとき、
つまり私が映画を観終わったとき、
主人公にはっきりした心の変化も、
その心の変化から生じた態度の変化も、
残念ながら感じられなかった。
「悪魔のリズム」は、
アメリカとイラクの話を日本人・吉崎道代がプロデュース、
スペインとイギリスで製作している(監督はスペイン人のヴィチェンテ・ペニャロッチャ)。
当事者でないからこそ客観的に考察し、真実に近づける場合もたくさんあるけれど、
この映画の場合、正攻法を捨てた時点で小粒に。
その上、奇をてらいすぎた感あり。
反戦でもなし、
事実を明らかにして糾弾する映画でもなし。
主人公の生き方が大きく変わる話でもない。
コトの本質に踏み込むことをしないまま、
その周りをぐるぐる回っていたらウズマキができ、
「あ、そのウズマキ、きれい・・・」みたいな感情のすり替えがあり、
知らず知らずのうちに観る者を本質から遠くへ遠くへといざなう。
吉崎氏は、
「戦争が、被害者であっても加害者であっても、いかに若者を犠牲にするか」
を描きたかった、という。
しかし、
被害者に対しても、加害者に対しても、
その心の葛藤には触れながら、
真正面から向き合うことをしていない、
少なくとも主人公の最終的な身のふり方を見ると、
彼を「向き合わせよう」とはしていない気がする。
「悪魔のリズム」公開は10月11日から。

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