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「バルカン ユーゴ悲劇の深層」

サッカー日本代表監督、イビチャ・オシム氏が脳梗塞で倒れた。
いまだ予断を許さない状態が続いているという。
持病を抱えながら、代表監督という激務をこなし、
文字通り身を削って日本サッカーのために邁進してくれた彼に感謝。
そして、
とにかく病状が好転することを祈る。
彼の手腕やサッカー人生については、「オシム語録」などに詳しいが、
彼の母国であるユーゴスラビアという国については、
なんとなく「ボスニア」紛争のところだね、とか、
第一次大戦の引き金となった、オーストリア皇太子が暗殺されたところだね、
というくらいしか知らない人が多いと思う。
はたまた、
政情が安定してきてからは、
観光地、保養地としてのバルカン半島も見直されている。
クロアチア・スロヴェニアは、女性を中心に人気の観光スポットだ。
歴史は知らなくても
「アドリア海の真珠」と昔から謳われてきた美しい城砦都市・ドゥヴロヴニクなら
ご存知の方もいらっしゃるかも。
なかなかなじみが薄く、複雑な歴史を
非常にわかりやすく説いてくれているのが
「バルカン ユーゴ悲劇の深層」(日本経済新聞社刊・加藤雅彦著)だ。
クロアチア、スロヴェニア、セルビア、モンテネグロ、マケドニア、
ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、コソボ、
解体してしまったユーゴ連邦のそれぞれの地域には、
周辺のオーストリア、ハンガリー、ブルガリア、ルーマニア、
ギリシャ、トルコ、アルバニアの人々も含め、民族がモザイクのように暮らしている。
西ヨーロッパの東方への入り口として、
大国が引いたり押したりする境界線となったバルカンでは、
取り残された者、入植した者、追い出された者、故郷を捨てた者、
様々な理由でそういう状態になったのだ。
そして、
どの民族も、自分が生まれた場所、育った場所、そして今いる場所に愛着を持つ。
そして「かつて自分たちがもっとも輝いた時代」の復興を夢見、
その栄光を語り継ぐべきシンボリックな「建造物」やそれがある「場所」にもまた固執する。
自分たちが中心になって、バルカンを統一する夢・・・。
それが、次々と悲劇を生んでいくエネルギーであるところが切ない。
一つになることの素晴らしさもある。
自分たちだけで独立することの誇らしさもある。
共生することの幸せもある。
でも
どうやっても誰かにとっては不満が残り、
それがいつ、再び紛争の火種にならないとも限らない。
人間の忍耐と叡智を試すかのような、バルカンの歴史。
読み終わると、
オシムやストイコビッチらがいかに大変な時期を過ごしていたかということ、
そんな中で「ユーゴスラビア」というチームを牽引し続け、
今も民族を越えて誰からも尊敬されているということに、
奇跡のような思いが湧いてくる。
彼らの素晴らしい人格に、心から敬服。
「平和ボケ」とよく叩かれる日本人だが、
オシムやストイコビッチがなぜ日本を愛してくれるのか、
その理由もまた「平和ボケ」できる国情にあるのではないだろうか。
その「平和」の素晴らしさをいとおしく思う1冊である。
1993年刊行の、少々古い本なので、
古本屋さんからの方が探しやすいかも。

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