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「THE 有頂天ホテル」


THE 有頂天ホテル スタンダード・エディション
私は舞台作家・三谷幸喜が好きだ。
彼の舞台で好きなものは枚挙にいとまがない。
しかし彼の「映画」は別物である。
ほぼ舞台とキャストを同じくし、密室劇として舞台をなぞった「12人の優しい日本人」、
監督デビュー作品にして最高に笑える「ラヂオの時間」、
喜劇に縁遠い佐藤浩市と喜劇の王様である西田敏行の化学反応を引き出し、
ようやく不作から抜け出せた最新作「ザ・マジュック・アワー」、
この3本以外の彼の映画作品は、失敗作だと思っている。
とくに「笑の大学」については、
舞台が日本の誇る演劇の一つに数えてもいいくらい素晴らしいものだけに、
「へえ、これが『笑の大学』か」と思われてしまうかと思うと、
もう身を斬られるほど辛い。
「THE 有頂天ホテル」は
これでもか、というほどフジテレビが番宣に力を入れ、
映画を観る前に映画を観た気になってしまうくらいネタバレの連続で、
意外性のすべてを奪ってしまったこともあったが、
それを割り引いたとしてもなかなか「笑えない」。
名うての喜劇作家・三谷幸喜が「練りに練った」「面白い」と力を入れれば入れるほど
「笑えない」。
「失敗作」だ。「喜劇」としては。
だが、
人間の悲哀を描いた作品としては、なかなかいい作品なのである。
今日見方を変えてみて、改めて思った。
これは「負け組」の人間たちの物語だ。
主人公の平吉(役所広司)は、ホテルマンとして副支配人まで出世しても、
所詮は舞台監督になるという夢をあきらめ転職しただけの身過ぎ世過ぎ、
この仕事をしている自分が好きではない。
だから自分がホテルマンとしていかに信頼を得ているか、同僚の評価に無頓着だし、
昔の妻に「ホテルマンである」ことを知られたくない。
大晦日の今日を限りにベルボーイの仕事をやめる憲二(香取慎吾)も、
路上ライブ歴8年でも芽の出ない自分に歌手の才能はないと見切りをつけ、
田舎に帰ろうとしている。
かつて政治家の愛人で、
今はシングルマザーとしてホテルのルームメイクをしているハナ(松たか子)も、
つねに不機嫌で笑顔がない。
羽振りのよかった過去の自分も捨てたいし、
だからといって今の自分の境遇に、誇りも幸福感も持っていない。
演歌を歌わせられるジャズが好きな歌手(YOU)も、
言われた文字をきちんと書くことだけを自分に強いている筆耕係(オダギリジョー)も、
みな「生きるよろこび」をどこかに置き忘れてしまっている。
そうした人間たちの頭打ち感、投げやり感、フラストレーションはすべて
「今の自分を認めたくない」ところからやってくる。
しかし、
「自分を認めていない」ことに、彼らは全然気がついていないのだ。
大晦日、新年までの3時間に起こる出来事が
彼らの心に「変化」をもたらす。
心のうちにかかっていた霧が晴れ、一歩を踏み出す勇気が出る。
それが「The 有頂天ホテル」の真骨頂だ。
この映画、宣伝のしかたを間違ったと思う。
決して「何秒に1回は笑える」式の映画ではない。
たしかに「笑いの仕込み」はあちこちにしてある。
けれど、それは「舞台の笑い」でしかない。
白塗りや、服や携帯の取り違えや、ニアミスの連続などは、
狭い舞台で役者と観客が同じ空間を共有するライブでこそ
実際にヒヤリとするほどの時間の制約とあいまって緊迫感が増し、
笑いが増幅されていくものである。
計算しつくされ冷凍保存された笑いなど、
映画館で解凍されたって元の笑いになんかならないのだ。
三谷さん、ときどき一人よがりになるからな~。
彼にとって舞台は自分のプロのフィールドだけど、
映画は「実験」の場になっちゃうから。
当たりはずれが烈しいです。
演技陣では、
自然な演技で香取慎吾、
不満のかたまりから自分を取り戻す振幅の大きさで松たか子、
ただ一人、最初から最後まで変わらない女、自分らしく生きている女を好演した
篠原涼子、
この3人が際立っていた。
ハナの元愛人で、汚職事件で進退窮った武藤田を演じる佐藤浩市が
もう一歩はじけてくれていたら、もっと面白い映画になっただろう。
その反省があったか、「ザ・マジック・アワー」での佐藤の演技は
飛躍的によくなっている。
とにかく、
「自分は不幸だ」という呪文で自分で自分を縛り、不幸にしている人たちの物語を
じっくり味わってほしい。
「笑え~、笑え~」という呪文から解き放たれて。

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