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「大統領の理髪師」


大統領の理髪師(DVD) ◆20%OFF!
“大統領の理髪師”と聞くと、“王様の耳はロバの耳”を連想してしまう私。
「大統領」とは、名前は出ないがずばりパク・チョンヒ大統領。
彼の時代を多少でも知る私としては、
「8・2分け」の髪型が、「理髪師」というキャラクターとこの物語の展開を創造させたか、
と思うほどである。
映画の冒頭、「これはフィクションです」とテロップが出るのも、むべなるかな。
フィクションではあるが、
彼の反体制運動に対する容赦ない弾圧・拷問・処刑という一面と、
カネや縁故にとらわれない清廉な政治家としての一面とを、
非常にうまく描いている。
韓国も、ようやく軍事体制の時代を客観的に描ける時代が来たんだな、と感慨もひとしお。
その反映となるのが、理髪師ハンモをめぐる悲喜劇だ。
青瓦台(韓国の大統領官邸があるところ)近くに住む理髪師のハンモ(ソン・ガンホ)は、
権力への盲目的な追従心と素朴な性格を買われ、官邸で大統領の理髪を任されるようになる。
そしてハンモは12年間、「国家機密」を一つも漏らさず、
大統領が暗殺される日まで理髪師を務め上げる。
ハンモの天然ボケのような、実直だが能天気な性格をフィルターにして
1960年から1980年という、大韓民国の政治の移り変わりが描かれる。
不正選挙あり、クーデターあり、北からのゲリラ侵入あり、暗殺あり。
政治や権力闘争とは無縁のハンモは、
周りの人のいうままに、あっちについたりこっちについたり。
そのボケっぷりが、思わず噴き出してしまう。
デモやらゲリラやらという深刻な問題もなんのその、
コントかよ?という演出に大いに笑う。
「大統領のやることは絶対正しい」「閣下は国家だ」などという言葉をそのまま復唱、
ただ日々平穏に、上にははむかわず、家族を愛し、流されて生きていく。
しかし、
町ぐるみでゲリラ掃討作戦に巻き込まれていく中、
最愛の子ども・ナガンを警察に突き出すことを余儀なくされる。
「韓国は民主国家だ。悪いことをしていないのだから、大丈夫」
ソ連のKGB、アメリカのCIA、そして韓国のKCIAが並び称せられていた頃である。
金大中事件の起こる、もっと前。
このセリフの持つ意味は大きい。
映画の後半は、父と子の放浪である。
ナガンの足を治すために、ハンモはナガンをおぶって国中の漢方医をめぐる。
最後の最後に出会った仙人のような男に
「体の病は私が治すが、心の病はお前が治せ」と言われる。
ここに来て、
なぜこの映画のナレーションが、子どものナガンであるのか、
ハタと気がつかされるのだ。
最初から最後まで、ちょっとトロイけど、いつもニコニコしているナガン。
ナガンの「心の病」とは?
それをハンモが治せるとは?
一人の小市民が「自分」というものを持って生きられる覚悟と、
そんな覚悟などなくても「自分」らしく生きられる自分の幸せに
心熱くなる作品。
話は深いが、トーンはあくまでコミカル。
最後は「理髪」に関わるオチまであって、ハッピーエンド。
「昔むかしある国では・・・」で始まり、「そして幸せに暮らしましたとさ」で終わる。
拷問の場面などは非常にあっさりと描かれているけれど、
気がつくと国家を盲信していたあの人も、この人も、処刑されてしまう。
暗黒時代の理不尽さを、まざまざと思い知らされる。
同時代を生き、知人が巻き込まれたことのあるような人が見たら、
忘れたい記憶が甦るような、そんな映画であろう。

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