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「カーネーション」を見ながら「ヴィヨンの妻」を思い出す

一流旅館の1人娘にして女将となった奈津が、
戦時中に大きくなった借金を返せず
病気の母親を抱えて夜逃げをし、姿を消す。
その後空襲の日に出会った男と一緒になって
戦後はいわゆるパンパンとなっていたところを、
闇市に出掛けた岸和田商店街の男達が見かける。
それを知った糸子はなんとしてでも救いたいと思い、
最終的に奈津は堅気に戻る。
奈津が大好きだった大工の泰蔵兄ちゃんの家の
美容室を手伝うことになったのだ。
泰蔵と勘助、2人の息子に逝かれた安岡のおばちゃんも、
長いトンネルからようやく抜け出し心機一転、
「髪結い」から「安岡美容室」へと看板を掛け替える日。
その看板の前で、一同は写真を撮る。
安岡の家の者3人だけでなく、奈津も入るようにと手招きされる。
看板の架け替えを手伝いに来た商店街の男達も、
そうだそうだと笑顔で送り出す。
美容室への改装に資金を出した糸子もその中に入る。
「パンパン」だった女が過去を捨て、有名になってからその過去がばれ、
それが殺人事件に発展するような推理小説はごまんとあり、
映画になったり二時間ドラマになったりしている。
だから
客商売である美容室を手伝うっていうのも、
それも自分をよく知る地元商店街で働くというのも、
そのハレの日の写真に写り込むというのも、
随分思い切ったことだ、と私はドキドキしてしまう。
それと同時に
パンパンだった奈津を闇市で最初にみつけた電気屋と履物屋が
そんな奈津と、なごやかに微笑みながら一緒にいることに
ものすごく違和感があった。
安岡のおばちゃんが「もう言いな。忘れ!」と言うのは分かる。
雇ってあげようというのも分かる。
糸子が親身なのも、分かる。
でも、単なる商店街のおっちゃんたちまで「忘れられる」ものなのか?
あの、今はデモ先導役の元「軍国おばちゃん」の耳に入らないだろうか?
美容室に来た人が、奈津の「過去」を知っていたら、どうなるのか?
私の胸は黒い雲でどんどんかきむしられていく。
とっさに
太宰治の「ヴィヨンの妻」の一説が頭に浮かんだ。
「椿屋にお酒を飲みに来ているお客さんが
 ひとり残らず犯罪人ばかりだということに、気がついてまいりました。
 夫などはまだまだ、優しいほうだと思うようになりました。
 路を歩いている人みなが、
 何か必ずうしろ暗い罪をかくしているように思われて来ました。
 …(中略)…あんな上品そうな奥さんでさえ、
 こんな事をたくらまなければならなくなっている世の中で、 
 我が身にうしろ暗いところが一つも無くて生きて行く事は、
 この世の道徳には起こりえない事でしょうか」

そして、ラストのこの言葉
大谷「ここに僕のことを、人非人なんて書いていますよ」
サチ「人非人でもいいじゃないの。私たちは、生きていさえすればいいのよ」

「一つの罪も犯したことのない者だけがこの女を石もて打て」
と、キリストは言った。
戦後、多くの女が、やむにやまれず春を鬻いて生き延びる。
その女たちが稼いだ金で食べ物にありついた者たちも含めたら、
一体どれだけの日本人が彼女たちのおかげで死なずに済んだろう。
そういう時代であったのかもしれない。
だから、
みな優しいのかもしれない。
奈津に、この先幸あれ、と祈る。
「ヴィヨンの妻」に関しては、映画も含めレビューを書いています。

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