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「バレエの神髄」のルジマートフ@文京シビックセンター

神髄=そのものの本質。その道の奥義。「芸道の―を究める」
すごいネーミングです。
でも、
私は昨日、本当に「神髄」を見た、という気がしました。
ファルフ・ルジマートフ。
私が彼のバレエを生で見るのは、1993年以来、実に17年ぶり。
当時でも彼は絶頂期の後半、という感じでしょうか、
これからは下り坂なんだろうな、というふうに思っていました。
ところが!
それから5年経っても10年経っても15年経っても、
ルジマートフの名が。
ネームバリューで客を集めているのか、それとも
コアなファンがずっと観続けているのか。
そんなふうにさえ思っておりました。
しかしつい最近、
私の尊敬するブロガーdolce vitaさんがレビューで
「やはりルジマートフは凄い」と書いているのを観て、
これはやっぱり自分の目で確かめなければと思い、
昨日行ってきました。
メインの演目は、第二部全体を使っての「シェラザード」ですが、
それより何より、
第一部で踊った「阿修羅」(振付・岩田守弘)が
圧倒的に素晴らしかった。
息を呑む、とはこのこと。
気付くと体を前のめりにして観ていた。
ほの暗いステージに、彼の体だけがスポットライトに浮かび上がる。
腕が、大きな掌が、長い指が、動き、そして止まる。
永い、静。
ただ止まっているのではない。溜めている。彼の精神が、身体中にみなぎる。
そして、素速い動。短く、力強く。
そしてまた、静。微動だにしない、静。
鼓や笛といった和楽器で奏でる藤舎名生の「玄武」は能楽のおももち。
これはバレエか?
ほとんど能か日本舞踊か武道かと思わせるほどの軸の作り方、
そして重心の深さ。
しかし四肢は軽やかで、しなやか。
背中に見える肩甲骨のあたりの筋肉が、一つひとつの腕の動きに連動して
ゆっくりと、ゆっくりとうねってみえる。
かつて古館一郎はイアン・ソープのことを「海洋生物」と讃えた。
ルジマートフも然り。
彼の体の動かし方を見ていると、
すでに「一流」とか「超一流」とか、そういう次元も超えて、
「ルジマートフ」という「生物」なのではないかとさえ思えてくる。
すでに50歳になりなんとしているはず。
それであの肉体。
若いダンサーなど足元にも及ばないほど美しい。
誰よりも丁寧に、力強く鍛えられている。
バレエに対する神々しいまでの精神がなければできることではない。
バレエを見た、というよりも、
彼の鍛え抜かれた肉体と、
向上し続けようとする気概と、
異文化に対する敬意と、
作品に対する深い造詣と、
「体」「動き」で「心」を伝える奥義と、
そうしたすべてを抱合する、彼のバレエに捧げた一生を
私はこの「阿修羅」で見せてもらった気がする。
すべてが終わったあと、
喝采の中でもルジマートフは1人、まだ「戻らず」にいた。
踊ったのではない、まして演じたのでもない。
彼は自分の中にバレエの精霊を呼び込んだ。
いつしか彼と精霊は一体となって離れ難く、
からみあったままそこにたたずんでいるのだ。
そうでなければ、
リズムもカウントもない難解な音と静寂の中に
失礼な客のけたたましい携帯音が飛び込み、
それも長く、それも何度も鳴っているのに、
あのように集中を切らさず、
何も聞こえないかのごとくに踊りきることなど
不可能だったと思う。
他のダンサーについては、また明日にでも。
今日はとにかく、ルジマートフを記しておきたい。
「バレエの神髄」はあと7月10日、11日、15日。
迷っている人は、絶対いくべし。
「阿修羅」を見るだけでも行く価値あり。

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