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英国ロイヤルバレエ「眠れる森の美女」

幼い日に買ってもらった、飛び出す絵本。
ページを開くたびに、
王様や、お姫様のきらびやかな衣裳や豪華なお城、
そしてあっちから魔女が、こっちから妖精が飛び出したり、
あっという間にお城がいばらに包まれたり…。
凝った仕掛けに
「わぁ~!」と感激して目を輝かせた本の中の小さな宇宙が
東京文化会館という大きなハコの中で展開されている……
そんなワクワクがずーっと続く3時間が、
英国ロイヤルバレエの「眠りの森の美女」でした。
序幕、
王様やお妃さまからして王冠や衣裳がハンパでない!
居並ぶ貴族たちも一流映画スターかっていうほど美しいし。
また
リラの精が王子をゴンドラに乗せてオーロラ姫が眠る城へ向かう場面の幻想的なこと!
この「パノラマ」と呼ばれるシーンは、
ゆったりした3拍子の音楽に合わせ、
二人を乗せた乗り物が舞台をゆっくりくねくね動くだけなので
ある意味「つまらない」「実がない」「つなぎ」でしかないのに、
当夜の私は、ここで感涙した。
ありえない美しさだ。
少しずつ進むゴンドラに合わせ、上から薄物のカーテンが下りてくる。
森の蔓(かずら)のような、植物のカーテンでもあり、霞のようでもあり。
イバラや木の葉・枝といった具体的なものを何も描いていないが、
かえって想像力がたくましくなる。
その布の透明性と柔かさが、「おとぎ話」のリアリティーなのだ。
ゴンドラの足元にはドライアイスの作る煙が品良く渦を巻き、
本当に夜の湖水を進むがごとし。
この先はどうなっているのか。
一体どこに連れていかれるのか。
わかっているのにドキドキした。
今季芸術監督のモニカ・メイスンは、
「1946年の『眠れる森の美女』の再現」を掲げ、60年の時を越えてこの舞台を作り上げた。
1946年といえば、第二次世界大戦直後である。
ロンドンの街は空襲にも遭って、
戦勝国とはいえ、疲弊していた。
そこに現われた「かつての英国の威厳と繁栄」。
舞台装置や美術・衣裳をてがけたオリヴァー・メッセルは、なるほど伝説となるわけだ。
今回は、当時の資料を再現するべく、ピーター・ファーマーが美術を担当。
オーソドックスの中に現代が求める「クラシック・スタイル」を散りばめ、
古くささなど微塵も感じさせない。
最高の舞台装置の中で生きるダンサーたちもまた、
私たちに夢を見させてくれる。
ロイヤルのダンサーは、足首がしなやかだ。
コールドであっても、着地で音をさせない。
この柔かさがどれだけ心地よいものか、私は改めて実感した。
当夜のオーロラはローレン・カスバートン。
コジョカルなど、看板プリンシパルが次々とケガで降板する中、
主演ダンサーたちの出演日はコロコロと変わり、
彼女も代役である。
大柄なローレン、最初は硬さも目だったが、
ローズアダージオをこなしたあたりから乗りまくり、
スピードや切れも出てきて
「踊りが大好きな、世間知らずなお姫様」そのままに演じた。
対する王子はイワン・プトロフ。
大柄なローレンの相手としては、ちょっと線が細い(彼は最初から当夜の王子が予定されていた)。
しかし、女性をきれいに見せるテクニックはさすが。
リフトなど、こちらの心配をよそに確かさを見せた。
(グラン・パ・ド・ドゥのアダージオでは、ちょこっと失敗して片手で抱えられなかったときもあったけどね)
今回、初めて「なるほど」と思ったのが、
なぜ、結婚式に赤ずきんちゃんとか童話の主人公たちが出てきて踊るのかっていうこと。
結婚式の場面の最初、
赤ずきんちゃんやオオカミや、ネコや、
はては「美女と野獣」やら「アラジン」のカップルまで出てきたんですけど、
「そうかー。ここは、おとぎの王国なのね!」
考えてみれば、100年前のお城に行って、
王子は100年前の人と結婚しちゃうわけですよ。
彼、自分の国のほうはどうなるの?とか、現実のこと考えてたらやってられないわけで。
夢見がちな王子は、
おとぎの国に吸い込まれて、
そこで幸せに暮らしましたとさ。Happily ever after、というのが
このお話なんだなー、と心から納得。
そうすると、二幕で狩とかご婦人との踊りとかに
まーったく興味を示さなかった不機嫌な王子の設定が生きてきます。
いやー、ロイヤルの「眠り」。すごいです。
堪能致しました。

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