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「十一月大歌舞伎」(夜の部)@平成中村座・二回目

初回、こきおろした七之助の弁天小僧が、
ものすごくよくなっているので、
まず「白浪五人男」から書きはじめたい。
娘に化けているときは、この前もよかったけれど、
問題の、男になってからの声が、太くて潤って、いい声になった。
ただ低くなっただけではなく、
河竹黙阿弥の名科白を、噛みしめるように語る。
ただ朗々と声が流れていくのではなく、
観客にイメージが届く。少なくとも、私には届いた。
退場する花道での掛け合いにもリズムができて安定。
桜の土手での大見得は、少し大仰過ぎたかもしれないけれど、
七之助弁天小僧のこれからが楽しみになった。
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驚愕は、「沼津」である。
主役が変わったのだ。
この前、主役は、仁左衛門の十兵衛だった。
今度は、勘三郎の平蔵だ。
勘三郎の調子が上がり、すべての登場人物の要となるこの役を、
堂々の主役に押し上げた。
特に、
やむにやまれず盗みをしてしまった娘のお米(孝太郎)に対して、
やさしく、厳しく、哀しくさとすところがたまらない。
謝るお米を「ええわい、ええわい……」と抱きしめる場面には、
親とはこういうもの、こうありたいもの、というすべてが詰まっていた。
仁左衛門も悪くない。いや、かえってよい。
この前は、前半に湿っぽさというか、もたつきがあったように感じた。
楽しく柔らかくほほえましい前半はいよいよ軽く心地よく進む。
そして後半は、
実の息子と名乗れぬ辛さと、実の家族への慕情とが色濃く出て
人の好い商人が老雲助を荷物持ちにし、
出会ったその雲助の娘に一目惚れ、嫁にと乞うたが袖にされ、
その上、その娘に印籠盗まれる。理由を聞くうちにその娘は実の妹、
荷物持ちにした老雲助は実の父とわかり、
しかしその妹の夫の仇は自分の義理ある人、という
ものすごーく複雑なストーリーを一気に生き抜く十兵衛という男の
ジェットコースターな心情の変化が、さらに分かりやすくなった。
科白や段取りにもいくつか改善点があって、
その丁寧な心理描写の説得力が、愁嘆場のカタルシスへと観客を連れて行く。
何度でも見たいと思わせる、名舞台である。
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「白浪五人男」
では、もう一つ、特筆したいことがある。
平成中村座では、
昼の部の「お祭り」と、夜の部の「猿若江戸の初櫓」とで、
最後に舞台の背景を開けて、外の隅田川が見える趣向である。
(大阪平成中村座で、後ろに大阪城、という形でやった、あれと同じ)
実は私はこの日、昼夜通しで観劇した。
昼の部と夜の部の間の1時間を、小屋のすぐ後ろの川べりで過ごしたのだが、
川岸に点々と続く桜の木を眺めながら
春にはどんなにいいお花見ができることだろう、と思ったものだ。
そうしたら、
白波五人男の最後の場面は、桜並木、川の堤が舞台ではないか。
背景の書割には、川の流れと満開の桜の木々がおさまっている。
今までも、何度も観ているこの書割だが、
この日は、格別の感慨があった。
「もし今日が春で、後ろがガーッと開いたら、そこにも隅田川と桜が!」
浅草の駅からちょっと遠い、この平成中村座。
けれど、
隅田川のほとりでやる意味って大きいと思った。
舞台を飛び出して、
後ろの堤の上に5人男が傘を片手に着流しで並んで立って、
「問われて名乗るもおこがましいが…」の日本駄右衛門から
高らかに名調子を響かせてみよ!
私たちは、そして通りすがりの人々は、
きっとやんややんやの喝采を贈るだろう。
行き交う船の人々も、笑顔で拍手するだろう。
江戸からずっとこの平成まで、文化はきちっとつながっている。
そのことを、
平成中村座はおしえてくれた。
実感させてくれた。
「江戸時代の芝居小屋にタイムスリップしていただく」
が中村座のキャッチフレーズだが、
私は逆に、江戸の歌舞伎が平成にタイムスリップした、
そんな感覚がした。
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明日は昼の部について書きます。

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