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  1. 舞台
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「佐倉義民傳」@シアターコクーン

歌舞伎にラップだって。
どこまでいくんだコクーン歌舞伎??
実際に劇場に足を運ぶまではかなり不安もあったのだが、
結果は最上級のカタルシスで涙、涙。
素晴らしい舞台だった。
特にその「ラップ」が予想以上に私の胸に感動を与えた。
いとうせいこうの歌詞が見事である。
メインリフレインとなる
は 走れ 宗吾 ひた走れ 走れ 宗吾 走れ ひた走れ
というリフレインも印象深いが、何より
「百姓の春夏秋冬」から始まる、佐倉の米つくりの1年を歌った曲が最高だ。
如月、弥生、卯月、皐月、水無月、葉月、長月、と、
田んぼのあぜを固めて作るところから
収穫した玄米のぬかを削って白米にするところまでを謳ったこのラップ、
1年の労苦を吹き飛ばすほどの収穫の喜び、幸せの塊が
俵となっておさむらいのところへ行ってしまうところまでを
ビジュアル的にもきちんと表現しながら流れる。
人間の労働の尊さと自然の営みの賛歌であり、
万葉の昔から伝わる日本の労働歌の粋を集めた輝きを放ち、
見事というほかはない。
私はいとうせいこうという人の業績を
あまり親しく味わったことがない。
時代に乗った人、流行に敏感な人、という印象が強かった。
しかし、
このラップは深い。
この1曲で彼を文学者として尊敬する。
ただ、
ラストシーンで繰り広げられる
「400年前の宗吾」が「俺たちの10年につながる」ことを強調した歌は、
ちょっと直接すぎたかもしれない。
いわずもがなのシュプレヒコールになってしまった。
あんなことを言われなくても、舞台を見れば
「ノー天気で誰からも好かれたく、手は汚したくなく憎まれたくなく、
だから目の前の人には無責任にすぐいいことを言ってしまうけれど
自分の発言に最後まで責任をとらない」お殿様(扇雀)は、
つい最近までどこぞの総理大臣だった人にうり二つだったし、
そのお殿様に
「あれだけ『何もお約束されますな』と申し上げたのに」としかめっ面をし、
「先代から年貢のことはすべて私がやるように申し付かっております」などと
世間知らずのボンボンに経験の差をちらつかせる代官(弥十郎)は
やっぱりつい最近大役を降りられたどなたかを連想させた。
百姓にしわよせが来る世の中を変えるために、
「一揆」でなくて「直訴」を選んだのが宗吾(勘三郎)だったのに、
最後の歌は、彼の業績を
「米騒動」や「安保闘争」や「成田闘争」と一緒にしてしまった。
そこは、ちょっと違うかな~。
その点は、勇み足のような気がしたけれど、
「つながってるんだぞ」「俺たちの中にも宗吾がいる」という思いはわかった。
農民の、日々の暮らしに根ざしたところから生まれるパワーの強さ、
その生活が続くことの幸せ、それを守ることの大切さ、
それを守ったのは「人を信じて行動するある1人の人間の信念」と
彼の善意を浴びて彼を支援しようとする人々の熱い思いであったことが
「歌舞伎」の大枠と型の中で大いに花開いた名舞台だったと思う。
不自由な田舎の百姓暮らしから飛び出たいと思う若い娘・おぶん(七之助)、
おぶんの両親だけでなく、おぶんにも去られ、
「去るほうはいいが去られるほうはこたえる」と自嘲しながら
それでも生き続ける老いた橋渡し(笹野嵩史)、
年増の夜鷹となってさまようおぶんの母(歌女之丞)とおぶんの遭遇、
名主として奔走し、ほとんど家にいない宗吾の代わりに
名主の妻として名主以上に役割を果たすおさん(扇雀・二役)と
宗吾の帰りをけなげに待つ子どもたち。
人々の感情がリアルなのだ。
「お上」が「民のリアル」をまったく思いやることができない世界が
ここに繰り広げられる。
そこが、二重三重に「今」と重なってあまりにリアルなのである。
だから
観客は涙を流す。
「どうしてまたいっちゃうの?」という次男の不平に。
「お仕事なんだからがまんしなさい!」とたしなめる長男の声に。
その2人が自分より先に首をはねられると知って
「今まで領民のためにと言ってきたけれど、それは違った。
 自分の子どもたちの未来のために、私はやってきた!」と叫ぶ
処刑台に磔けられた宗吾に。
「お国のため」でも「国民のため」でもなく、
身近な誰かのために、国も政治もよくしたい。
そんな誰かを、私たちは待っている。
いや、
私たちがそうならなくてはいけない。そのためには……
「走れ 宗吾 ひた走れ 走れ 宗吾 走れ 思い知れ」と
リフレインが頭の中を流れ続けるのである。
悲劇でありながら、希望が残る。力が湧く。
そんな舞台だった。
宗吾のあまりの聖人ぶりに寄り添ったり反発したりする弥五右衛門(橋之助)は
原作にないキャラクターだという。
キリストに対するユダのような役割を担った彼の役割は
もう少し掘り下げられていたら、もっと魅力的だったかもしれない。
東京Bunkamuraのシアターコクーンで明日6/27まで。

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