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「菅原伝授手習鑑」@大阪国立文楽劇場(3)大夫の力

今月の「桜丸切腹の段」は、住大夫引退狂言です。
引退するときは、口上を述べることがよくありますが、
今回は住大夫が固辞したと聞き及びます。
本当はもっともっと語っていたいのに、
自分の力が衰えてきたことを自覚しての無念の引退であるため、
とも聞こえてまいります。
私が文楽にぞっこんはまってから、まだそれほどの年月はありません。
その短い間でも、
住大夫の衰えぶりははっきりとわかるものがあります。
ちょっと前の住大夫の豊かな語りと比べると、
声量の低下、声のかすれ、高音の不安定さは
私のような文楽初心者にも、「あれ?」と感じるくらいなのです。
それでも、
先月の「堀川猿廻の段」での老婆の語り口の優しさは絶品だったし、
今月の「桜丸切腹の段」、
その前の大夫の平板な語りに比べ、
第一声のうなりからして劇場中にその声が轟く凄まじさに、
「衰え」ているのは一部分であって、
まだまだ語ってほしい、まだまだ演じてほしいと思うのでした。
私の席は床に近かったこともあり、
気がつけば目は住大夫の口元にくぎ付け。
唇も舌も顎も、なんと大きく柔らかく、縦横無尽に動くことでしょう!
この奥深い筋肉の動きから、大夫の錦織のような語りが生み出されるんだ、と
今頃になって気づくのでした。
決して大声を出しているわけではないけれど、
劇場中にその「うなり」は鳴り響くのです。
ささやくような声も、また。マジック。
若手の語りは、どんなに声を張り上げても、声音をつくってみても、
唇も舌も喉も、住大夫の3分の1も動いていません。
動きも扁平なら、声の質も扁平なのです。
いわゆる「変顔による小顔エクササイズ」ってありますよね。
あの威力です。
筋肉は使わなければ動けない。
私たちの日常は、大夫の語りほどの喜怒哀楽を表さなくなっている!
だからこそ、
大夫の名調子に表れる爆発的な感情の発露、
それも何人もの登場人物のそれぞれの気持ちを揺れるがごとくに語り分ける
浄瑠璃の凄さに私は打たれてしまったのだと
今回初めて思い当りました。
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引退する住大夫に勝るとも劣らぬ語りで
通し狂言「菅原伝授手習鑑」の最終の場面「寺子屋」を
1時間半熱演した嶋大夫が
惜しくも病気により休演されたということを知りました。
代役は千歳大夫。好評のようで何よりですが、
(1)(2)でも語りました通り、
私は今回の通し狂言で、
嶋大夫の「寺子屋」があればこそ満足して帰ることができた口です。
だから、
せっかくチケットをとりながら、彼の名調子を聞けなかった方々が
本当に気の毒でならない。
同じ通し狂言でも「伊賀越道中」では、
前半の「沼津の段」が住大夫、
後半は「岡崎の段」が嶋大夫で、昼夜ともに大満足だった。
今回は、住大夫、嶋大夫とも夜公演なので、ちょっと偏りを感じたのだけれど、
その嶋大夫も休演というのは、本当に残念。
まだ後半長いので、
お元気になっての復活を心から願っております。
また、
来月の東京公演でもあの熱気こもった語りを必ず見せていただけるよう、
祈っております。

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