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「海賊」

拍手とは、時に励まし、時に賞賛。
けれど、昨夜(5/12)行われたKバレエカンパニー公演「海賊」に贈られたアプローズは
ひと味ちがった音がした。
観客一人ひとりの顔が様々に上気し、満足そうな笑顔をたたえ、
「感謝」の拍手を続けていた。それも総立ちである。
「ありがとう。こんなに素敵なバレエを見せてくれて、ありがとう」と。
場所は上野の東京文化会館。
1階席のみならず、2階も3階も、すべての観客が立っていた。
Kバレエカンパニーの公演では何回もカーテンコールが繰り返されるのが通常で、
観客は、文字通りのアンコール(encore=もっと、まだまだ、もう一度)を堪能し尽す。
スタンディングオベイジョンも日常茶飯事。
それでも、「総立ち」それも一気の総立ちはそんなにあるものではない。
10人の男たちが、船に揺られるようにゆっくり体を左右に動かしている序曲から、
たちまちKバレエの物語に引き込まれていった観客は、
どの場面の完成度にも満足し、すべての登場人物のパフォーマンスに驚嘆した。
特に今回代役で敵役・ランケデムを射止めた橋本直樹は、
滞空時間の長いジャンプで観客を魅了した。
アクの強いキャラクターを堂々と演じ、舞台栄えもする。
若さ爆発でスター性を感じさせ、将来が楽しみである。
プリマのメドゥーラ(康村和恵)の凛とした美しさは言うまでもないが、
メドゥーラの妹・グルナーラ役の荒井祐子も奴隷に売られた誇り高い姫を好演、
確かな技術に複雑な感情表現を加えて進境著しい。
一幕、荒井と橋本のパ・ドゥ・ドゥは、大きな拍手と「ブラボー」の声に包まれた。
そして、熊川哲也。
彼の「海賊」のグラン・パ・ド・ドゥをナマで観たのは、10年以上前である。
今回は全幕の物語に沿って、
メドゥーラ、アリだけでなくコンラッド(キャシディ)との3人で演じられたが、
流れるようなアダージオが文句なく美しかった。
熊川のソロでは多少ミスがあったものの、それをカバーしてあまりあるコーダでの炸裂!
ここに限らず、全幕を通じて熊川のパフォーマンスは質が高かった。
特に、1幕、ランケデムの橋本と2人で同じ振り付けでフーガのように踊る場面では、
ランケデムを挑発し、いなすように、舞台狭しと踊り抜けていった。
橋本も、熊川に引けをとらないジャンプ力で付き従い、
カリスマ熊川を向こうに「競い合う2人」という場面の本質を崩さないだけの技術を披露した。
(最後の最後に着地ですべったのは、ご愛嬌)
昨夜舞台に出たすべてのダンサーが主役だった。
全員が、一人の登場人物としての顔を持ち、パーフェクトに踊り、表現した。
次々と変わる舞台装置はどれも華麗で意匠が凝らされ、
異国情緒あふれる衣裳にも目をみはった。
だが、この日の殊勲者は、何といっても指揮者・福田一雄氏。
見事なタクトでオーケストラから最高の音楽を引き出し、
舞台上のバレエを牽引したのである。
この「海賊」を再構築するにあたり、音楽を選ぶところから組み立てた、という熊川。
福田氏なくては、今回の成功はありえなかったと確信する。
それは、カーテンコールで福田氏が舞台に上がった時、
ひときわ大きな拍手が湧き起こったことがすでに証明しているといえよう。

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