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「モーツァルト!」

「モーツァルト」といえば、「アマデウス」。
私の中にはそんな思い込みがあった。
だから、今まで2回行われているこの帝劇ミュージカル「モーツァルト!」公演に
私は行ったことがなかった。
気が変わったのは、「ロマンス」(井上ひさし作)を観た時、
井上芳雄が非常に感情豊かに、そして丁寧に歌を歌っていたから。
彼のミュージカルが観てみたい、そう思った。
結論から言おう。
素晴らしかった。
井上ヴォルフガングもよかったが、
プロダクションそのものの質、構成、なによりテーマがよかった。
父親レオポルド(市村正親)との葛藤、
ザルツブルグのコロレド司教(山口祐一郎)との対決なども
見ごたえがあったけれど、
何と言っても「ヴォルフガング」と「アマデ」の対峙という世界観が
このミュージカルの肝である。
成長したヴォルフガングには、いつも幼い時「天童」ともてはやされた「アマデ」がついている。
「アマデ」(この日の子役は野本ほたる)は、白いカツラをつけ、赤に金モールの服を着、
いつも白い羽根ペンをもって楽譜を書いている。
「曲はできたか?」という父親の問いにヴォルフガングは
「できてます。頭の中にね」と答える。
そして、アマデがペンを置くと、ヴォルフガングに合図。
ヴォルフガングはビックリしたようにアマデに言う。
「できたの??」
この構図って、天才によくあるよね。
努力じゃなくて、頭に浮かぶ。知らないうちに作品ができてくる。
「頭の中ではできている」
後は、それを記せばいいだけだ。
この無邪気な関係が、そのうち変わってくる。
ある時は、アマデがヴォルフについていく。
ある時は、アマデがヴォルフを引き止める。
ある時は、ヴォルフがアマデについていく。
ある時は、アマデがヴォルフを見放す。
いつしかアマデはヴォルフを苦しめ、
ヴォルフはアマデを憎む。
自分の影であるアマデに対し、「お前のせいだ、お前のせいだ、お前が悪い!」と叫ぶヴォルフ。
胸が張り裂けそうだ。
一幕の終わり、
それまですらすらと音符を生み出してきたアマデのペンが急に書けなくなる。
するとアマデはヴォルフに向かい・・・。
私はその場面で息をのんだ。そして、涙がこぼれた。
創作するということは、血肉を削って何かを生み出すということ。
私の師匠はそれを「夕鶴のおつうだ」と言った。
自分の羽根をもぎとりながら、それを織り込んでいく作業、それが創作。
奇しくも、
アマデがヴォルフにした行為は、それを表していたのだ。
そして、物語のラストは、ヴォルフがアマデに・・・。
天童と言われた男が、本当に才能ある男が、
何に惑い、何に苦しみ、何を求めていたか、それをひしひしと感じる物語
それが、「モーツァルト!」だった。
脇をかためる重鎮がすごい。
特に香寿たつき。
彼女の歌う「星から降る金」は光り輝き、劇場を包んだ。
「男爵夫人」ながら、まるで神のお使いのような声は、
その役回りと重なってモーツァルトの道しるべとなる。
彼女の出番はあと数回。天から降る歌声を聞きたければ、今すぐ劇場へ!
山口祐一郎も怪演。
彼の「神よ、何故許される」を聞きながら、
ああ、今の山口さんに、またジーザスをやってほしいと思う。
声にあふれる神への問いかけ。その「声」だけで、彼はジーザスの存在感を出せる。
市村正親は、不器用にしか息子を愛せないかたくなさを好演。
しかし声はつまりぎみで、絶好調とはいえなかった。残念。
シカネーダー役の吉野圭吾は抜群のエンターテインメントで客をひきつける。
今まで見た彼のパフォーマンスの中で、私は一番好きだった。
歌もよかった。
今回初の出演となるコンスタンツェ役のhiro。
コンスタンツェの「ありのままのヴォルフが好き」だけど「天才を理解できない」
という感じをよく表していた。
バラッド系の歌はよく抑えて聞かせていたが、大声で歌い上げると「SPEED」節になり、
歌詞が観客に伝わらなくなる。
これからミュージカルを続けていくには、発声の勉強が必要かな、と思った。
しかし、何にしても井上芳雄だ。
彼はこれからの日本のミュージカルを牽引していくだろう。
演出の小池修一郎が、主役の2人(井上芳雄/中川晃教)に
「20年後、井上コロレドと中川レオポルドを!」と言ったという気持ちがよくわかる。
20年前の山口と市村を、私も思い出していたのだから。
フィナーレ、すべての出演者が声の限りに「影を逃れて」を熱唱。
一番前には
市村正親がいる。
山口祐一郎がいる。
香寿たつきがいる。
吉野圭吾がいる。
そこに後ろから井上芳雄が登場。
ふいに聞こえる、まったく異なる音色。
井上の声だ。
モーツァルトの声。主役の声。
並居る一流どころの声をものともせず、
彼の声が鮮烈に耳に届く。
美しくて、豊かで、劇場を支配する、声。
スターの声。
昨夜は「モーツァルト」通算300回公演だったという。
そんな記念の回を体験できて、私は幸せ者だと思った。

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