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「エル・アルコン―鷹―」(宝塚・星組公演)

宝塚とは、不思議な装置だ。
ストイックなまでに前時代的な修業時代、
「清く、正しく、美しく」をモットーにした女の園。
ところが、
そこから生み出されるのは、
すべて男と女の色恋を核とした、歌と踊りのあでやかな舞台。
見つめあい、抱きあい、絡み合い・・・エロス満載なのである。
今回の星組公演「エル・アルコン―鷹―」は、
イギリスの海軍大佐でありながらスペインに寝返る主人公・ティリアンに扮した男役のトップ
安蘭けいが、とろけるほどにカッコいい「悪い男」を体現して観客を魅了した。
昨夜の朝日新聞・夕刊の劇評の中に
「誇り高い女性が次々とレイプされ、するとその女性が男を慕うようになるという光景に接すると、
 驚きを禁じえない」(天野道映氏)というくだりがあったが、
うーん、それはちょっと違うかなー。
「女は抱かれてしまえばなびくもの」という考え方に男性が反対してくれるのはうれしいが、
この舞台では、
人の婚約者だったぺネロープも、「ティリアンは敵」と公言していたギルダも、
実はティリアンに魅力を感じていた、
体裁的には「NO」といいながら、実はその時点でティリアンの魅力にまいっていた、ということが
ちゃんとわかる筋立てになっていたと思うんだけど・・・。
私は青池保子の原作も読んでいないし、
この舞台を見るのも、安蘭けいという人を見るのも初めてだけど、
それでも「あの」ティリアンには、いっぺん抱かれてみたいわー、と思ってしまった、ほどである!
ぺネロープを「かわいい」といってやさしく抱き寄せながら、
気がつくと短剣で命を奪って不敵な笑みを浮かべるところなんぞ、
もうあばら骨のあたりからゾゾゾゾゾーっと皮膚が粟立ってきちゃうほどシビレました。
いやー、
雪組の朝海ひかるのダンスの切れにも惹かれたが、
安蘭の「ティリアン」のフェロモン、はっきり言って、無敵です。
とにかく、声がいい。声だけですべての気持ちを表せる。
無力で愚かな母親への哀れみ、愛情。
「私には父親など、無用」といい放つ時の、怒りと寂寥、そして孤独。
そして、
抜群の歌唱力で舞台を引張る。
押し出す音は劇場を揺るがし、甘く囁く声は、体ごとそちらの方へ吸い込まれていくほど。
「グランブルー、グランメール、グランスカーイ・・・」というリフレインが印象的な
「七つの海、七つの空」など主要な歌は、
映画「半落ち」や「ゲド戦記」の音楽を担当した寺嶋民哉。
今回初めて宝塚に委嘱されたというが、のびやかな旋律が心地よい。
安蘭がティリアンの鬱屈した心理をその音と言葉できっちり伝え、
相手役、敵役などと織りなすハーモニーも申し分なかった。
娘役トップで、貴族にして女海賊という誇り高き女性ギルダを演じる遠野あすかは、
ファルセットと地声のはざまが不安定だったのが気になったものの、
高音域の歌声はそれらすべてを帳消しにするほど力強く滑らか。
通常の「お姫様」役なら、アルト音域を駆使する必要もなかっただろうと思うと、
ギルダの役はきっと相当難しいものなのだろうと想像する。
トップの二人のほか主要な人物はさすがの歌唱力と演技を披露して遜色なかったが、
コールドとの実力差があまりに大きい。
一幕第三場、港町プリマスでの合唱など「プリマス、プリマス」と歌っているのがわからない。
後から登場したレッド役の柚希礼音が囁くように語ったその声で
「ああ、ここはプリマスなのね」とようやくわかる、というのはいかがなものか。
群舞の発声・ダンスの未熟さは、これからの星組の課題ではないだろうか。
とはいえ、レヴュー「オルキスの星」で見せた黒い鳥たちのラインダンスは、
圧倒的な人数による黒タイツの帯に感動。
ただの「ダンス」に「演技」が加わった時、先輩たちのようなプラスアルファの魅力を出せるよう、
精進してもらいたい。
そのレヴューだが、振り付け・美術が非常に斬新。それもそのはず、
アストル・ピアソラのタンゴをふんだんに取り入れた振り付けは、
アルゼンチンのコロン劇場でバレエ団の芸術監督を務めるオスカル・アライス。
(コロン劇場は「世界でもっとも踊りやすい大劇場」と言われ、
熊川哲也もルドルフ・ヌレエフも、ここで「海賊」のパ・ド・ドゥなどを踊っている)
酒場で男二人が妖しくタンゴを踊る場面など、
もう絶対日本人には作るの無理!と思わせる雰囲気。
足と足を細かく絡み合わせ、手と手を握り締め、・・・。
これ、男と男のタンゴだけど、踊っているのは、実は女と女なんだよなー、と、
黒の酒場に目を奪われながらも、
心の中では繰り広げられている倒錯の倒錯、みたいな舞台を
どうしてこんなふうに自然に受け入れられるのか、自分でも不思議な感覚に陥った。
惜しむらくは、
ダンスの技量が一流の振り付けに追いついてない!
まだ「形」だけを踏襲しているダンサーが多いのが、なんとも残念。
きらっと光ったのは麻尋しゅんか?(ちがってたらごめんなさい。小柄で「緑」の人)
自分の上着とダンスするところでも、上着をきちんと女性と見立て、
やさしさと愛情を以って、こわれやすい女性の体を感じながら踊っていた。
ジャンプなどの切れも抜群。
これから、注目していきたい。
一転、そこは南国パラダイス! オルキス(蘭)の花咲くジャングルチックな世界。
陰から陽、黒から極彩色へ、
レヴューならではの展開が鮮やか。
そして、いつもながら、最後にトップの人が背負う「羽根」の大きさに、
度胆を抜かれる。
宝塚の舞台は一切のカーテンコールがなく、
「ジャン!」と終わってしまうのは、
出待ちに急ぐから、という理由のほかに、
「一刻も早く、『あれ』を下ろさせてあげたい」というやさしいファン心理かな、
などとも思ってしまった。
外に出れば、そこは冬の夜。
体の中にはまだ、舞台の熱さを感じながら、
「グランブルー・・・」と口ずさみ、家路についたのでした。

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