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東宝ミュージカルアカデミー

ちょっと前までは、
日本のミュージカルといえば「劇団四季」しかネームバリューがなかったけれど、
最近は、
「レ・ミゼラブル」「ミス・サイゴン」「モーツァルト」「エリザベート」など、
帝国劇場でやるミュージカルが熱い。
この帝劇、お隣りのシアタークリエ、そして東京宝塚劇場、と
日比谷のこのあたりって、東宝系の劇場でかためられています。
学校と劇団が直結している宝塚は別として、
東宝系の他のプロダクションは、基本オーディションです。
劇団としての囲い込みがない分、
ある程度実力が認められれば自分の好きな舞台を選ぶことはできますが、
逆にいえば「どうやったら力をつけられるか」が問題。
以前もちょっと書きましたが、
今の演劇を底支えしているのは、俳優座とか文学座とか、
そういうところで基礎を仕込まれて羽ばたいていったベテランさんたち。
映画やテレビの世界でもそう。
かつて映画会社は、どこでも「ニューフェイス」などといって、
自前の俳優を採用しては、「明日のスター」を育てていました。
テレビはそういうものがないので、
斜陽になった映画界から映画に育てられた人たちを引き抜いては使い、
そのおかげで、ある程度の質を保つことができていました。
今、テレビドラマの質が急激に落ちている背景には、
「テッパン」を優先して既に人気のあるマンガなどを原作に作り、
シナリオライターにオリジナルの本を書く場を与えないこととともに、
俳優の質の低下が関係していると私は思っています。
主演助演級には実力者を据えたとしても、脇に素人同然の人たちが多すぎる。
「どこかで養成された人」がいないわけではないけれど、
そういう実力者を使わなくてもドラマはできる、
少なくとも、ま、これくらいでいいだろう、と思っている現場に
私は問題があると思います。
ジリ貧のテレビ界に追い討ちをかけるようなこの大不況で、
制作サイドはものすごいコストカットを強いられていて、
いよいよ「質の維持」は困難になっているようです。
自前の養成システムを持っていないということは、
それほど危ういこと。
「栄光の持続」「長い繁栄」のために、
「教育」「育成」が絶対に必要な投資であるのは
国にしても、演劇にしても、同じことなのです。
その意味で、今注目したいのが「東宝ミュージカルアカデミー」
東宝が設立した、ミュージカル俳優専門の養成学校です。3年前に作られ、現在は4期目。
「将来の日本のミュージカルを支える若き才能を育成すること」を目的とし、
「レ・ミゼラブル」のコゼット、エポニーヌ、マリウス、アンジョルラスや、
「ミス・サイゴン」のキム、クリス、トゥイ、
「エリザベート」のルドルフ、
「モーツァルト!」のヴォルフガングなど
若い世代の活躍が期待される役柄への抜擢も含め、
ミュージカル界の底上げを図ろうとする画期的な試みです。
東宝ミュージカルアカデミー(TMA)は、
たった1年のカリキュラムだし、月謝も高い(*1)。
宝塚のように、「ここを卒業すると必ず劇団に入れる」という保証もない。
卒業しても自分でオーディションを受けまくるしか手立てはなく、
翌年アドバンスコースに進めるのは成績優秀者だけ。
けれど、
アドバンスコースに残れれば月謝は免除されるし、
卒業生の中には、
すでに東宝ミュージカルやその他の舞台で、
アンサンブルや役付きで活躍している人が出ている(*2)。
山田和也、山口ひで也、前田清実といった、
現在帝劇やクリエのプロダクションに関わっている人たちが指導者なわけだから、
「今、どんな役者が求められているか」を
肌で感じることができる、というわけ。
豊洲にある練習場には、
帝劇と同じような舞台装置をしつらえたスタジオもあり、
今かかっているプロの俳優たちも稽古に来る。
そういう雰囲気の中でプロ意識が高められ、
目標が身近にあることで意欲も増すだろう。
何より、
同じ目標を持った若者が
それも全国から選び抜かれた30人あまりが、
力を合わせつつ切磋琢磨する1年が、
彼らをきっと大きくする。
このTMA、
年に1回の卒業公演は既にものすごい人気でなかなか観られないのだが、
最近「試演会」を積極的に催すようになった。
「俳優は、お客様に見てもらうことで成長する」という面を重視した結果のようだ。
ニール・サイモンやチェーホフ、シェイクスピアなどの1シーンを集めた
第一回試演会には行けなかったのだけれど、
見学した人の話では、
入学からわずか3ヶ月でこれだけのものが出来るのはなかなかのもの、とのこと。
私が観たのは、7/20海の日イベントで、
いろいろなミュージカルの1シーンをつなげる形のもの(4期生)のほか、
卒業生による演劇(「父と暮らせば」より)、オリジナルミュージカルやダンスなどを披露。
何の装置もない平場のスタジオの一角を舞台とし、
あとはお客さんを入れる中、
音源はピアノとラジカセ、みたいな手作り感で、
文化祭的ノリだった。
まずは、はちきれんばかりの若さが眩しい。
特に四期生は、前へ前へという意気込みが目に見えるようだ。
個々の実力、という意味では、もちろんまだまだ。
特に、セリフのクリアさ、表現力は人によってかなり個人差がある。
あえて一人ひとりをフューチャーする作りにしてあるので、
たった3ヶ月でも、うまくて目立つ人あり、拙くて目立つ人あり。
けれど、
アンサンブルの見事さには舌を巻く。
歌の力強さ、ハーモニーの美しさ、舞台を動き回るその自然さは、
すでにある程度の水準に達していると思う。
卒業生の演目の中では、
「オリジナル」という点に注目したい。
もちろん、著作権の問題などがからむから、という理由もあろうが、
大きなプロダクションのコマとして使えればそれでいい、という養成ではなく、
演劇というものをまるごと学ぶチャンスを与えられている。
演劇とは、
そこに人がいればできる奥の深い芸術だ。
帝劇は大掛かりな舞台装置があって、マイクがあって、衣装もすごくて、
そういうもののパーツとしてではなく、
「そこにあなたがいればいい」という力のある役者を
この学校は育成しようとしていると思った。
「東宝ミュージカル」アカデミーではあるけれど、
卒業生の活躍の場は、きっと広がるに違いない。
舞台の基礎のすべてを学びながら、自分にあった表現の場を模索できる
いい修練の場になるだろう。
一度観ただけでは、名前と顔はなかなか一致しないが、
これから何度も観る中で、未来の大スターの最初の1歩の目撃者となりたい。
*1
 本科でも資質によっては、全額免除から3割免除まで学費の減免あり。
*2
 7/20は姿を見せていないが、卒業生のうち、
 藤田光之、岡村さやか、竹内晶美は、素晴らしい。
 特に、
 小柄ながら感情がほとばしる圧倒的な歌唱力の岡村は、すでにスターのオーラあり。
 竹内の美しい歌声は、これぞ正攻法。どんな舞台にあってもこういう人はほしい。
 卒業生の活躍の場については、こちらに一覧表あり。
 この前見た「ミス・サイゴン」のジジ役・池谷祐子も1期生なのね~!

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