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TMA Extra公演@シアタークリエ(2)

「演じる」とは、何か別のものになることではなく、
自分をさらけ出すことである、と何かの本で読んだ。
舞台に立つのが「こわい」と感じるのは、
自分自身がまる裸にされるからなのだ、と。
俳優になって大成した人の中には
「子どもの頃は引っ込み思案だった」
「人前でものを話すのが苦手だった」という人が意外に多いのは、
彼らは「役」という自分以外の着ぐるみを与えられることで、
安心して自分をさらけ出すことができる人々だからではないだろうか。
TMA Extraの舞台を観ていて感じたのは、
心に響く歌と、何の感情も生み出せず消えていってしまう歌と
一体どこがちがうのだろう、ということだった。
小難しく言えば、
「歌詞の内容を理解している」
「人物の性格や場面の状況をふまえている」
ということなのだろうが、
突き詰めれば
「歌っている」か「さらけ出している」かの違いだったと思った。
歌っている人が気にかけているのは
「うまく歌う」「音程をはずさない」「丁寧に歌う」などなど。
歌がうまければ、聞き心地は悪くない。しかし、感動はない。
良いミュージカル俳優は「語るように歌う」という。
「歌詞」ではなくて「セリフ」なのだ。
「ダンス」ではなく「表現・表情」なのだ。
「ここでビブラート!」「ここでクレッシェンド!」「ここでターン!」
……などと考えていては、
観客に、登場人物の心は伝わらない。
「ハチに刺されても」と歌うとき、ハチに刺された感覚を想像しているか。
その感覚が歌に、声に、表情に、動きに、反映されているか、
その反映が、観客に届いているか。
「こんなに大きくなって」と歌うとき、
手塩にかけた娘が今日嫁ぐ、という母の、
うれしいけれど、不安で寂しい感情の高まりを隠した
複雑な心境が今にもあふれ出そうか、否か。
同じようなメロディーが何回も反復されるから、
ただ同じ音程を同じように歌っては単調になる。
全幕を通しての上演ならば、それまでの話の流れや扮装その他で
ある程度観客は予想して共感することが容易だけれど、
今回のようなブツ切れの場面をパッと見せられたとき、
俳優の本当の実力が出てしまうのだな、とつくづく感じた。
お客さんのなかには、
それが何というミュージカルの、どんな場面で歌われるかも知らず、
歌っている男女が恋人同士らしいとしても、
どんな境遇を背負っているかも分からない場合がある。
それでも、
いいミュージカル俳優は瞬時に客を虜にして、
なんだかわからないが夢の世界に連れていってくれるのだ。
一音一音に恋のときめきがあり、悲恋のやるせなさがあり、
幸せの絶頂の爆発があり、人生に絶望した投げやりさがある。
繰り返す。
一曲に、ではなく、「一音一音に」、それはある。
そのどれをも切り取って自分のものにし、
一音一音の意味をとらえることができ、
自分の中の感情と結び合わせて再現でき、
客席に投げかけてくれた人だけに、
観客からの拍手は贈られる。
それには、
「さらけ出す」ことが必要なのだ。
電車の中や教室の中でにこにこしているのと同じテンションでは、
舞台に立つ意味がない。
ほんとはイタかったけど人前だからガマンする自分ではなく、
思いっきり「痛い~」と恨めしそうに言う自分はどこにいるか。
日常社会の中の自分は本当の自分ではない。
蜜のベッドで恋人だけに見せる乱れようや、
家族内でしかできないような大喧嘩や、
自分ひとりになったからこそ言えるような悪態や、
夢の中で人を殺しまくるときの狂気や、
そんなものを、ぶちまけて、初めて「ふつう」になるのが
「舞台」という空間なのだと思い知った。
そうでなければ恋人でない男と恋をして、
嫌いでもない人をなぶり殺しにし、
人生が大好きなのに、自殺したりできるはずがない。
自分でも知らない自分の奥底の感情を
「役」という着ぐるみに託してぶちまける。
それができた人の歌には感動があった。
その「ぶちまける」感情が、
優れた技術によってコントロールされたとき、
彼は、彼女は、良いミュージカル俳優になれるのだと思う。
どんなにはじけても音程が揺るがず、
逆に感情とからまったからこそとんでもない音域にまで到達するような
そんな歌を、
観客はわくわくしながら待っている。
TMA Extraレビュー、まだまだ続きます。

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