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「ろくでなし啄木」@東京芸術劇場中ホール

三谷幸喜と藤原竜也の初タッグ、
それも歌舞伎界でぐんぐん力をつけている中村勘太郎と初共演、
しかし吹石一恵は初舞台、という、
興味津々だけどちょっとこわいような作品「ろくでなし啄木」
そのプレビュー公演を見た人たち、
藤原竜也を見続けてきたファンの人たちが
「最近の作品でもっとも好きかも」と言っている、
その言葉に引かれてチケットゲット。先週見てきました。
行ってよかった。
吹石さん、セリフの口あともテンポもよく、初舞台とは思えぬ素晴らしさ。
勘太郎さん、勘三郎さんのよさをすべて受け継いだかっていうくらい完璧。
だけど
竜也さん、主役はやっぱりあなただった。
あなたはやっぱり舞台で生きる人だ!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
以下、ネタバレになるのでこれから見る人は
観劇後に再度お立ち寄りくださいませ。
啄木(藤原)がトミ(吹石)とテツ(中村)と3人で温泉旅行に行った先で
「何か」が起こり、
その「何か」によって、啄木は深夜宿から逐電。
12年後、
すでに啄木の死後、啄木の銅像の前でトミとテツが久々に出会い、
「あの夜」何が起こったのか、トミがテツに話してほしいと頼むかたちで始まる。
第一部は「あの夜」をトミの目から、
第二部は「あの夜」をテツの目から語る。
そして、
最後に「あの夜」を啄木が語って終わる、という形式。
第一部では、
勘太郎の、父・勘三郎をほうふつとさせるコメディアンぶりが、
第二部では
同じ勘太郎が、第一部でのテツの善人ぶりを裏切るダークサイドを見せ、
その芸幅の広さ、深さ、確かさで藤原を圧倒。
完全に勘太郎、主役の藤原を喰ったか?
・・・と思いきや、
最後の最後に藤原の独白場面は
まさに藤原の独壇場。
いい加減で、プライドが高く、カネにも女にもだらしなく、言い訳がましく、
自分は人をだましても、人が自分をだますのは気に入らない。
でも、才能があり一途で愛すべき存在としての啄木の魂の叫びを、孤独と矛盾を
全身全霊で表現する。
目が離せない。
100%を優に超え、250%くらいの力を一瞬にして出せる役者なのだ。
そして、
これまた一瞬で、何事もなかったように、ただの「ろくでなし」の啄木に戻る。
そのギャップの見事さは、そうそう誰にでもできるものではない。
このエネルギッシュな生き方。
舞台の上に流れる特別で凝縮されたライブな時間の中でしか
彼のよさは出ない。そう思った。
三谷の脚本がいい。
啄木の、いわば太宰治的露悪趣味を
真正面から捉えようとしている。
三谷は今回、喜劇ではなくエロティックサスペンスを書いた、と言っている。
もちろん、笑いもあるが、
それはテツとトミの役割である。
啄木に笑いはない。
一つもない。
もちろん、客席が笑う場面はある。
しかし、これは個人差だろう。
たとえば「テツに悪くてこれ以上借金はできない、
だから彼をだましてカネをだまし取る。それは悪くない」という啄木の姿勢に、
客席は何度も爆笑。
でも、私には笑えない。
そういう気持ち、わかるもの。
「彼に悪くて」ではなく、「これ以上の借金すると、自分が苦しい」ということだ。
テツが三十一文字で、五七五を無視したどうしようもない歌を詠む。
観客は笑う。
でも私は笑えない。
啄木も笑ってはいない。
短歌と俳句の違いもよくわからないような男が、
カネでは世話になっているが、教養がない、と小馬鹿にしていた男が、
何の躊躇もなくルールを飛び越え、自分では獲得できない自由さを披露する。
啄木のダメージは計り知れない。
吉原に女を買いに行ったことをトミに非難された啄木が、
「どうして私が女を買ったとわかる?」
「(告げ口をした親友の女性は)君が悲しむと知ってそんなことをしたのだから、
そんな女を決して親友などとは呼んではいけない」
などと屁理屈をこねてトミを言い負かしてしまうところも、
私はまったく笑えない。
遠い昔のことではあるが、
トミと同じように、恋人の不実を非難しようとしたら
(同じといっても女を買ったのではない、昔の恋人の名誉のために)、
かえってたしなめられた経験が何度もある。
あとから考えればどうしたってあっちが悪いのに、
どうして私は「自分が悪かった」と思ってしまったのか、今でも不思議。
そういう、人間の、リクツでは割り切れない感情を、
きちんと言葉にして舞台に具現化し、
俳優の肉体を使ってリアルに立ちのぼらせている三谷に感服。
そして三谷が書いた啄木の、心の闇の際限ない深さを、
藤原はよく表していたと思う。
終わってみれば、
勘太郎の完成されてそつのない演技より、
藤原の圧倒的な存在感にのしかかられる・・・そんな舞台であった。
トミを抱こうとして、急に興ざめしトミを残して部屋を出る、
あのときの啄木の豹変が、私は一番好き。
終盤にそのときの「説明」があるけれど、
そんな「説明」など不要であるくらい、
藤原の演技は研ぎ澄まされている。
背中だけで、
女の裏切りを一瞬で見抜いたことを表していた。
久々に、太宰の小説が読みたくなった。
浅野忠信と松たか子で映画化された「ヴィヨンの妻」を、
藤原の舞台で見たみたいものだ。

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