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「コンフィダント・絆」

今年、もっとも観たかったけれど、チケットがとれなかった演劇、
それが三谷幸喜作・演出の「コンフィダント・絆」である。
中井貴一、寺脇康文、生瀬勝久、相島一之、と実力十分な4人がそれぞれ、
スーラ、ゴーギャン、ゴッホ、シュフネッケルをやろうというのだから、
それも、「赤毛もの」を「赤毛のカツラなし」でやろうというのだから、
これは事件ですぞ~!!
話はゴーギャンもゴッホもまだ売れない頃、スーラだけがちょっと評価されていた1888年。
ロートレックはものすごく有名だった頃のパリで、
売れない画家4人(うち3人は未来の有名画家)が一緒にアトリエを借りていた。
そこへモデルとして雇われたルイーズが毎週来るようになり、
私たちはルイーズの目を通して、この4人の貧乏画家の関係を知るようになる。
紳士然としているスーラ(中井)、グチばっかり言っているゴッホ(生瀬)、
そのゴッホが頼りにしているゴーギャン(寺脇)は、以前は船乗りだったというだけあって、
明るく器用で人あしらいもうまい。
ゴッホにまとわりつかれるのを嫌いながらも、見放すことができず彼の世話を焼く。
シュフネッケル(相島)は美術の教師をしていて一人だけ所帯を持っている。
彼の面倒見のよさと人のよさが、4人でアトリエを借りるきっかけを作った。
ゴーギャンを絵の世界に誘ったのも、彼である。
ただ、ちょっとKY。
「スーラは点々で絵を描く」
「ゴッホは見たものしか描かない」「ゴーギャンは想像で描く」
「ゴッホは描いている途中は誰にも絵を見せない」
などといった性格や、
「アトリエを共同で借りるためのルール」などといった
序盤のどうでもいいようなセリフが後になって重要な伏線になっていく、
恐ろしいほど緻密なストーリー。
日常生活ではてんでダメ男、ゴーギャンに頼ってばかりでもっとも卑屈に見えるゴッホを、
実はゴーギャンが密かに恐れている、というあたりから
話のトーンは単なるドタバタから奥深い心理劇の様相を帯びてくる。
ゴッホの目に、異様な自信の光がともる。
ゴッホの1枚の絵にうろたえる、スーラ。そしてゴーギャン。
才能があるからこそ、他人の天才を認めざるをえない悔しさ。
そして、
「みんな仲良し」の時代は終わる。
これは、絵描きの話である。
ゴッホ、ゴーギャン、スーラ、そして彼らとアトリエを持った男・シュフネッケル。
でも、
三谷の話でもあるのだ。
東京サンシャインボーイズにいた頃、
最初に劇団を飛び出したのは、相島だった。
三谷も、さらなる飛躍を求めて劇団を後にする。
一緒に始めた者の中には、引き止めたものもいるだろう。
「いつまでも、一緒にやろうよ。仲間じゃないか」と。
―たしかにお前はいいやつだ。
だけど、お前といても、ダメなんだ―
あまたの友情を振り切って、日本の演劇の頂点の一つとなった三谷にとって、
「コンフィダント・絆」というタイトルは、
過去へのラブレターであるような気がする。
三谷だけではない。
気がつくと、自分と周りの見ているものが違っている・・・。
自分が求めるものを、周りは考えてすらない・・・。
そんな経験のある、すべての人にとって、
この物語は懐かしく切なく、そして、苦い思い出。
―あの時は、言葉が足りなくてごめん。
君が嫌いだったわけじゃない。
でも、ああするより仕方がなかったんだ―
「君がこのアトリエを借りてくれなかったら、
 僕たちは絵が描けなかった」
今さらわかってくれとはいわないが、
でも精一杯の感謝の気持ちをこめて、
三谷はこの劇を作ったと思う。
狂言回しのルイーズ役・堀内敬子が歌も演技も素晴らしい。
彼女が大声で泣く場面では私も肩を震わせて泣いた。
生瀬ゴッホの不気味さ、中井スーラの小心さも特筆ものだが、
もっとも光っていたのは寺脇ゴーギャン。
最高にカッコイイ男を演じながら、その胸の底に抱えるドス黒い闇をしっかりと見せた。
けれど、本当の主役は相島演じるシュフネッケル。
最後の最後に、100年たって名前も覚えてもらえないような彼こそ、私たちなのだと知る。
そして、現実の残酷さに彼の心が張り裂けるのを、一緒に体験する。
ルイーズのやさしい歌と、涙をこらえたシュフネッケルの笑顔が、
永遠の命を与えられる芸術にも、
命とともにこの世を去る凡人の人生にも、
それぞれの幸せがあることをおしえてくれる。
WOWOWで放送したものは、いわゆる劇場中継ではなく、
この放送のために役者だけで演じたものを録画した。
「最初から映像として作られた映画でもなく、
どうやっても生で観るのにはかなうはずのない、観客と一緒に作る劇場での光景でもなく、
・・・というものにボクは挑戦しました」とは三谷の言。
観客なしでも、
俳優たちは自分たちの世界に入り込み、最高の緊張感ですばらしい空間を作り上げていた。

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