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「醜男」@世田谷パブリックシアター

ドイツの演劇というものに、まるで縁がない。
ブレヒトもちゃんと見たことがない。
この前、ドイツ演劇の講演会のようなものに行ったけれど、
知らないことだらけだった。
だけど、山内圭哉は好きだ。
入江雅人も好きだ。
彼らが出るなら見てみよう、ということで、
世田谷パブリックシアターに行ってみた。
新進気鋭の若い劇作家マリウス・フォン・マイエンブルクの
「醜男」
翻訳劇、それもドイツの現代劇、と聞いたら
どんなに小難しいかと思いきや、
これが笑いどころ満載のコメディタッチに仕上がっている。
大当たり。
たった1時間15分の上演だけれど、中身がギュッとつまっていて、
シンプルで、だけど深くて、
これぞ演劇、という舞台だった。
誘ってくれたAさん、ありがとう。
話はプラグの開発をして特許を持つ研究者レッテ(山内圭哉)。
売り上げアップを図るため、スイスにプレゼンに赴く
…つもりでいたら、プレゼンの担当は部下のコールマン(齋藤工)に決まった。
「なぜ自分じゃないのか?」
詰め寄るレッテに上司シェフラー(入江雅人)は言う。
「君は人前で話ができるような顔じゃないだろ」
えええええ????
俺ってそんなに醜かった?
妻(内山理名)におそるおそる聞いてみる。
「あなたはとっても魅力的」「愛してる」
そういいながら、彼女はレッテの顔を正面から見ない。
「あなたがプレゼンするって聞いたとき、会社も勇気あるなと思ったわ」
えええええ?????
俺って、そんなに醜いの?
「今まで俺は自分の顔に多くの欲求を持ったことがなかった。
 でも、みんなにそこまで言われたら、このままの顔ではいられない!」
レッテは形成外科の診療を受け、
まったく新しい顔を手に入れる
「自分の顔であった痕跡、自分の個性はまったく失われてもかまわない」
という同意書へのサインと引き換えに。
その後に人生にどんな影響を及ぼすとも知らず……。
「セルフ・イメージ」という言葉があるけれど、
レッテは「セルフ・イメージ」を人から与えられたイメージで塗り替えてしまう。
自分が研究者である、という誇りや自信も、
美しい妻が自分のことを愛し尊敬しているという事実も、
「醜い」のひとことで、何の価値もなくなってしまう。
彼は新しい「顔」によってさまざまに翻弄されるけれど、
最後までこの「他人の」言葉から抜けらない。
抜けられないからこそのハッピーエンドが、
ものすごく現代的だ。
照明のみで場面転換を構成、
山内以外はすべて複数役を演じる複雑な舞台でありながら、
すっきりクリアに見せる河原雅彦の演出が光る。
しかし、
何と言っても山内と入江のセリフ術の確かさだ。
単純すぎる言葉に込められた複雑な心境を、
まじめくさった説明の中にユーモアを。
滑舌もよく、声の通りもよく、言うことなし。
観客が戸惑わないよう、
板の上からリードしながら時々ひと息入れてくれるような、
優秀な水先案内人たちである。
自分たちがしっかりと戯曲を理解していなければ、
こういう目配りは決してできない。
妻、女重役、看護婦と3役をこなす内山も
意識的にデフォルメして極端な差異をつくり好演。
齋藤は、女重役の息子の屈折した心情を素直に演じたのがよかった。
「醜男」東京・世田谷パブリックシアターで7月12日(月)まで。
その後、7月15日(木)一日だけ大阪のサンケイホールブリーゼで上演する。

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