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ヒラリーをめぐる二冊の本


リビング・ヒストリー

大統領への道
表紙だけを見たって、
一人の女性を裏と表から見た感じがよく出ていますね。
「リビング・ヒストリー」は、いわゆる自伝です。
それに対し、
「大統領への道」は、ピューリツァー賞を受賞したこともある記者が
ヒラリーからの取材協力を得られない中で書きました。
・・・そういう書き方をすると、
「リビング・ヒストリー」にはうわべが、「大統領への道」には真実が書いてある、みたいに
思ってしまうかもしれません。
でも、必ずしもそうじゃない。
2冊は合わせ鏡です。
「自分が思う自分像」と、「外から見た自分像」。
ヒラリーという一人の女性が、
どんな人生を送り、どんな気持ちで育ち、
何を考え、何に抵抗し、何を大切にしようと思っているか。
・・・それがよく出ていたのは、「リビング・ヒストリー」でした。
自分の可能性と夢を信じながら、
「女」であることによって次々と壁にぶちあたった青春時代。
日本人である私たちが読んでも、
共感できるところ、多々あり。
彼女が「ヒラリー・ロダム」という旧姓使用にこだわっていて、
ビルがアーカンソーの州知事になってからも、
招待状には「ビル・クリントン」と「ヒラリー・ロダム」の併記だったいいます。
州知事選挙に一回負けたときに、
「ここは南部なんだから」と選挙対策のスタッフに説得されて
「ヒラリー・ロダム・クリントン」と名乗るようになりました。
それでも「ロダム」のミドルネームには、こだわり続けてきたようです。
女性として、わかります、この気持ち。
実を捨てても名だけは残してアイデンティティを維持しようと思っているのに、
「名は体をあらわす」とばかりに、そこを消せといわれるときのくやしさ。
自己実現よりビルの成功を先にするために、
すべてを賭けていただけに、彼女も辛かったと思います。
大統領夫人になったことを
「課長夫人」だから課長みたいにエライとか、
「社長夫人」だから社員の奥様全部の長だとか、
そんなカンチガイをする女性じゃなかった、ということも付け加えておきたい。
彼女は、「自分の力で」自己実現したかったんです。
だからこそ、
彼女は、大統領になりたい。
その反面、大統領夫人として訪問した海外の先々で、
皇室・王室の人々やきらびやかな宮殿などに目を奪われうっとりするさまも出ていて、
「なぜ大統領になりたいか」
の理由に、私は本能的に「?」を感じた。
ほかの政治家もそうだろうけど、
野心の源は、名誉欲だったり征服欲だったりする。
そういう部類かなー、と。
とにかく、成功して、賞賛の拍手を浴びたい人なんだと思いました。
どこかに、「私は今まで正当に評価されていない!」というコンプレックスがあって、
それを拭いきれないままこれでもか、これでもかと邁進している必死さが伝わってきます。
デキる女性にありがちな人生だなー。
「リビング・ヒストリー」は、ビル・クリントンが大統領をやめるまでのお話です。
大統領官邸を後にするヒラリーの
「I shall return」が聞こえてくるような幕切れでした(「それも今度は私が主役で」付き)。
それに対して「大統領への道」は、
そこから始まったヒラリーの「今度は、私の番よ!」の大攻勢も含めて、わかる本です。
前半は「リビング・ヒストリー」に準拠して彼女のバックグラウンドを辿りながら、
その裏を検証していく形をとっています。
その一つひとつのエピソードに、今に通じるヒラリーの「核」のようなものがある。
そうやって、ヒラリーという人物像に迫ります。
優秀な一人の女性が、いかに高い理想に向かって地道に努力したか、
それは、痛いほどわかるんです。
でも、彼女は基本的に妥協しながら進む性格。
「理想」と「妥協」、けっこう矛盾してる。
この2つを扱う絶妙な舵の切り方の連続が、彼女を政治家としてここまでにしたのは確か。
でも、その「妥協」が「理想」を蹴散らしてしまうことも多かった。
「一体、何を考えてるの?」
敵か、味方か? 支持するべきか?
一瞬は共感するのだけれど、どこか信じきれない。
そこが、彼女のウィークポイントになっているような気がします。
(絶対に誤りを認めない、というかたくなさもポイント下げてますね)
2つの本の決定的な違いは、
裁判沙汰になった「ホワイト・ウォーター事件」について。
「大統領への道」では、「うやむや」を絶対許さない覚悟で彼女の矛盾を突いていきます。
「一つのごまかし」が、小さなほころびとなり、それが結局
「モニカ・ルインスキー事件」でビルが偽証という、愚かな行為につながっていく、
それを単なる「不適切な行為」のなれのはてではなく、
もっと暗部の、彼と彼女の政治生命を左右するミスを表沙汰にしないための四苦八苦だったと
結論づけているのです。
そう、この本は「大統領への道」ですから。
アメリカ大統領候補として、ヒラリーは適任か否か。
そういう視点に立って、彼女のすべてを検証しようというのが、この本の目的。
だから、ブッシュ政権に声高にNOを突きつけているヒラリーが、
9.11の直後、一体どのような声明を出しているかなど、
「上院議員」としての彼女の政治足跡も、つぶさに追跡しています。
オバマ氏と熾烈な民主党候補争いを繰り広げているヒラリー。
「もう、おりたら?」の声に
「最後まで自分からあきらめたりしない!」を宣言するヒラリーの、
ガチガチの鎧の下に隠された、せつない半生を
この二冊の本におしえてもらったような感じです。
「ヒラリーは、大統領の器か?」を考えつつ読むもよし、
でも政治に興味がなくても、
一人の女性の話としてとても読み応えがあります。
ある意味、
あなたの、そして私の物語です。
(この2冊とフォーリン・アフェアーズに掲載された「私が大統領になったら」をもとに、
 ファム・ポリティクにヒラリーについての原稿を書きました)

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