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「アウトロー」(神山典士」


アウトロー
ノンフィクション・ライター・神山典士が、
フリーになって初めて出した本が、この「アウトロー」
現在ノブリンことピアニストの辻井伸行や、
昨年亡くなった忌野清志郎について、
長期の取材をもとにいくつもの記事を書いている神山は、
何ヶ月あるいは十数年、取材対象にはりつくこと、
その過程で、取材対象のみならず、その周辺の多くの人々に、
綿密な聞き取りをしていくことが持ち味である。
今は取材対象のジャンルを決めず、
自分の得意不得意に関係なく、
ありとあらゆる魅力的な人間について取材している神山だが、
フリーになって初めての企画は、
彼の「神様」であった吉田拓郎のインタビューだったという。
また、
大学の卒論が、演劇部への張り付き取材だった。
その延長線上に、
この「アウトロー」がある。
ある種のエキセントリックさをオーラのように発する人々について、
あるときは真っ向勝負、あるときはひねりを利かせた質問、
そして結局は長期の取材で勝ち得た信頼によって、
「大御所」でもある人々が、本音をぽろっと打ち明けていく。
舞台人では、大竹しのぶ、つかこうへい、マルセ太郎
映画人では、伊丹十三、勝新太郎
ミュージシャンでは、小沢健二、大黒摩季
レスラーでは、藤原喜明
1997年に発刊された本である。
初出は92~95年の記事が多いが、加筆されている。
勝新太郎については、書き下ろしである。
たとえば映画「This is It」が出なければ、
多くの人たちが「マイケル・ジャクソン」について、
長いこと素晴らしい音楽を提供してきた彼のエンターテイメント性より
小児性愛あるいは
異常なまでに白い肌にこだわる整形マニアとしてしか記憶していなかったように、
「勝新太郎」は、
「玉緒の夫」とか「パンツ事件」でくくられることのほうが多くなった今こそ、
この本は読まれるべきだと思う。
勝と雷蔵の売り出し期の話、映画製作へのこだわり、、
そして三味線への思いなど、
もう知る人ぞ知る、レアな情報になってしまった。
大竹しのぶも、「さんまの元妻」までしか知らない人が多いだろう。
最初の夫服部晴治が、がん治療のため入院していることを内密にして、
看病のためと言わずに「午後5時開演」という、
ある意味社会人にケンカを売るような条件をのませて
「奇跡の人」のサリバン先生役を引き受けたくだりなど、
ジェットコースターのような人生を必死の形相で生き抜く大竹が
目に浮かぶようである。
今年、私は「虫明亜呂無になる」と宣言した。
虫明が取材対象あるいは事象を通して自らの哲学を語るタイプであるのに対し、
神山は、取材対象の人生を、もう一度編みなおすタイプである。
私たちは、神山という舟にのって、神山というタフな漕ぎ手に身をゆだね、
大竹の、勝の、藤原の、つかの、マルセの、伊丹の人生の川を下っていく。
下って、そしてまた上る。
戻ってみると、
彼らを見る目がまったく違っていることに気づく。
神山の文章には、そういう魔力がある。

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