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シネマ経済学入門「ローマの休日とユーロの謎」


ローマの休日とユーロの謎
この本の著者、経済学者にして映画好きの宿輪純一氏。
彼は27歳のときに自分のこれからの人生の目標を決めた。曰く、
「エコノミストになる」
「映画の仕事をする」
「本を出す」
「学校でおしえる」
それから20年足らずの現在、
そのすべてを実現した宿輪氏は、まさに有言実行の人。
しかしまたの名を、努力の人ともいう。
銀行マンをやりながら年に250本以上の映画を見、大学で教え、
そのほかに月に一度、ボランティアで経済ゼミをやり、
(最近はゲストの講演会もセットし出したので月に二度)、
さまざまな雑誌に記事を書き、
経済系の著書のなかには銀行マンの教科書になっているものもあるという。
「時間だけはどの人にも平等に与えられている」というのが信条で、
だからこそ時間を無駄にしないでがんばる人である。
ではすべての時間を仕事に振り向けているかと思えば、
レモンの木やバラの花をベランダで丹精し、健康のためにマラソンをする、
人生の幅の広い人でもある。
「ローマの休日」や「ティファニーで朝食を」が大好きな、ロマンチストだ。
私が宿輪氏と接点を持ったのは、ある名刺交換会で
「経済とか映画とかの記事を書いています」と自己紹介したら、
その日知り合った人の一人が
「ボクの知り合いに映画と経済とやっている人がいるよ」と後日紹介してくれて、
月一のゼミに参加したのがきっかけ。
オープンマインドで偉ぶったところが全然ない、きさくな人である。
「難民映画祭」の支援もしている。
「シネマ経済学」というネーミングは彼が考案し、現在商標登録中とのこと。
彼が朝日新聞に「スクリーン経済学」の連載を持ったことは以前にも書いたが、
ほかにも「映画に学ぶ負けない勇気」「シネマ経済学」など、
多数の雑誌に書き、テレビにも出演している。
そんな宿輪氏が満を持して刊行したのが、
この「シネマ経済学入門・ローマの休日とユーロの謎」
で、
これまでに記事にした映画を中心に、
80を超える作品について、「経済」という切り口で語っている。
経済といっても、
あるときは格差社会、あるときはブランド力、
あるときは映画業界のからくり、あるときは車業界の浮沈、という具合で、
映画とは、常に時代を写す鏡だということを改めて実感する。
多くのハリウッド俳優や監督とのインタビューを経験していることもあり、
こぼれ話的な楽しさも満載だ。
一度も「シネマ経済学」に触れたことのない人は、
切り口が新鮮で、
「へぇ~、映画ってこういう見方もあるんだ」
「経済って難しいと思っていたけど、自分の身の回りにすごく関係あるんだなー」など
面白い発見がある本だと思う。
一つひとつの映画がコンパクトにまとめられているので、
たとえば通勤通学の電車の中で、一駅で1作品分読める感じ。
駅に着いたら気になる映画をレンタルして帰るっていうのもいいかも。
ただ、私はちょっと物足りなかった。
これまで氏の記事はけっこう目にしてきたので、
この本には今までのものプラスアルファの展開を期待していた。
記事の初出が書いておらず、またすべてが初出原文のままなのか加筆修正したのか、
いくつか書き下ろしたものがあるのかが不明なので断言はできないのだけれど、
一つひとつの記事がおそらくはその時々のニーズに応じて書かれているだろうし、
あらすじ→経済的なポイント→発展→結論という同じ起伏を持つため、
小さな山が連なるばかりで、一つの「大きな山」になっていない印象だ。
全体を「時代」「経済」「金融」「経営」「映画産業」「人生」の
6つの章立てで区分してあるので、
もしかしたら、「時代」に始まって「人生」で終わる、というように
起承転結が想定されているのかもしれないが、
成功しているか微妙なところ。
どこをどう斬っても「シネマ経済学」である以上、
「人生」の章でも結局経営について書いてあったりするし、
一つの映画の中でもいろいろな面を引き出しているので、
読み終わったときに、章立てによって全体がよみがえってくる感じがない。
うーん、本って構成のしかたで見え方が違ってくるんだなー。
私もいつかは「本を出したい」と思っている身なので、
いろいろ考えさせられ、非常に勉強になりました。
人生の悲哀に心を痛め、ラブコメにときめき、
好きな映画を「ここが好きだ!」と楽しく明るく書きながら、
ポイントポイントで経済を語る宿輪氏の筆致が
「垣根」を作らない彼のひととなりをあらわしているような気がします。

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