火曜日の「自腹」もう1作は、
ポーランド映画の「バリエラ」。
現在公開中の「アンナと過ごした4日間」が最新作の、
イエジー・スコリモフスキ監督が
1966年に製作した映画です。
「彼らには歌がある。私たちにはない」
「彼らは自叙伝を捏造できる。だが私たちは英雄にはなれない。
7歳の子どもは戦車を爆破することができても、4歳には無理だから」
アプレ・ゲール、といっても若い皆さんにはピンとこないでしょうが
フランス語で「戦後」を意味するこの言葉でひっくくられていた
若者の
戦前の社会を作ってきた年上世代に対する反発、焦燥と爆発、そして虚無感と自嘲が
故意的に引き算された背景の演出の前で詩的に繰り広げられます。
パーティーに集まる年寄りたちの顔、顔、顔。
何かに追い立てられるように黙々と走る市民たち。
ビルの壁に貼りついたウサギやガチョウ。
マネキンだけが浮かび上がる深夜のショーウィンドウ…。
「映画」というより、不条理演劇。
「セリフ」というより、コクトーの詩。
セリフも映像も、暗喩のオンパレード。
一体それは、何を意味するのか?
頭フル回転で観なくてはならない映画でした。
ポーランド語はまったくわからないということもあり、
「解釈」しながらストーリーを追うようにして観るクセのある私は、
ごめんなさい、途中何度か夢の中(汗)。
でも
「時代」を「新しいアート」で切りとったという二重の意味で
彼は斬新だったということはビンビン伝わってきた。
特にその映像の前衛さは、今見ても驚きの連続。
へえ~、そう来るかっていう感じ。
「筋よりシーン」の方は、必見かもしれません。
新作の「アンナと過ごした4日間」も、
監督らしさ爆発とか。見てきた人から聞きました。
唐突な終わり方は一緒かな?
今回は上映に先立ち、監督の舞台あいさつがありました。
ものすごくダンディな方で、
オフホワイトのスーツにサングラス。
それなりの恰幅で胸板あつく、背筋はぴん!
語り口もソフト&クリア。
およそ70台には見えません。
そういう人が、映画が終わった後、
ヒルズの中をフラフラ(失礼)歩いているっていうのも
映画祭ならではの光景ですね。
お話の中で、
この映画は最初脚本を書いただけだったけれど、
途中で監督が降板し、
プロデューサーから後を頼まれたいきさつが披露されました。
「国のお金(ステート・マネー)を半分以上使っておいて
完成させないというわけにいかない」とプロデューサーに説得され、
あといくら予算は残っているかを尋ねたところ35%残っているというので、
そのお金で自分の作りたいように作ったということです。
気に入らなかったキャスト二人も代えたし、
それまでの「続き」というより、新たな発想で作りなおした感じです。
国のおカネで、この内容の映画か~。
そこがなおさらすごい、と思いました。
後に祖国ポーランドを出て映画製作をする決断をする監督の
体の芯から湧き上がる抑えがたいマグマを感じることができます。
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「バリエラ」@東京国際映画祭
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