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「ゆれる」


 ゆれる / オダギリジョー
西川美和が監督と脚本を手掛け、彼女を一躍有名にした映画である。
非常に高い評価を受けた映画だし、
その後見た「ユメ十夜」で西川監督が作った「第九夜」の
“あいまい”かつ“鋭い”切れ味のよさに惚れて、
遅ればせながら「ゆれる」を見た。
女(真木よう子)は、猛(オダギリジョー)が好きだ。
以前、彼が東京に出る際に、「一緒に行こう」といってくれた猛を。
あのときは、決断できなかったけど、
ずい分、時が流れてしまったけれど、
今は連れて行ってほしいと思っている。
「こんな」田舎から飛び出て、東京に行きたいと思っていた。
そんな女が、猛と、その兄・稔(香川照之)と、
近くの渓谷に遊びに行く。
長髪・ヒゲのクールな弟に対し、実直だが面白みのない、非モテ系の兄。
渓谷には、吊り橋がかかっていた。
弟は1人、スタスタと吊り橋をわたる。
吊橋のこちら側には、「田舎」を象徴する兄が残る。
向こう側には弟が。「都会」の匂いを振りまきながら。
女は弟を追う。
兄は、女を追う。
高いところが嫌いなのに、女を追って吊り橋に足を踏み入れる。
「危ないよ。つかまらないと、危ないよ」
女を気遣うふりをして、
兄は女にしがみつく。
自分がこわいからか、しがみつく。
女を行かせまい、としがみつく。
「離してよ! 触らないで!」
女は兄を振り払う。そして、橋から落ちて、死ぬ。
女はいかにして落下したか。
バランスを崩し、自ら落ちたのか。
それとも兄が突き落としたのか。
兄に殺意はあったのか。
それとも、事故だったのか。
「向こう側」でその「瞬間」を目撃した弟は、
どのような証言をするのか、しないのか。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
描かれるのは、「家を守る」兄と「出て行く」弟だ。
香川照之とオダギリジョー(カメラマン)でもあり、
その父・伊部雅刀と叔父・蟹江敬三(弁護士)でもある。
弟たちは、すべてを兄におしつけた罪悪感を拭い去るため、
「アニキには世話になった。アニキはエライ、オレにはとてもできない」と言う。
兄にとって、弟の活躍は自慢であるとともに、羨望。
「家を守る」は自負や誇りでもあるが、
自分で自分をがんじがらめにした鎖に苦しんでもいる。
気がつけば、「希望」より「役割」を選び取ってしまった自分の
成れの果て。
ひそかに惚れていた女を、
ひょっこり帰省した弟にかっさらわれたことによって、
兄の中で「何か」が壊れる。
どう壊れたのか。
弟は、それをどう受け止めるのか。
ここが、話の肝となる。
香川照之の演技には感服する。
そこに殺意があろうとなかろうと、
人一人、それも自分の好きな女性を死なせてしまったことで、
いかに心身が消耗するかを見事に表現。
自分が「罪」を負うことでかえって解放される良心、
捕まることでしか、
あの「家」からも「親」からも解放されないというアイロニー。
こうした人間の複雑な心理を、
ちょっとした目や口元の動き、声の出し方、
さらに手や後姿などで示していた。
その一方、
「弟」の感情が何によってどう変化していくかが、
いまひとつ伝わってこない。
それは、オダジョーの演技力がどうの、ということではないと思う。
「猛は何を見たか」
「何を見た上で、兄の無罪獲得のために奔走したか」
「それは、罪悪感からか、愛情からか、優越感からか」
ストーリーを追う間中、この3つが私の頭の中にあった。
物語の最後を見ても、
「なるほど」と思えるほどのものを、感じることはできなかった。
自分と兄との関係が「ゆれる」と
自分の証言も「ゆれる」、
しかし、それは故意に事実をねじまげているのではなく、
見たときの印象まで「ゆれて」しまう・・・。
その「あいまいさ」をたゆたうことが心地よい人には、
面白い映画だったのかもしれない。
しかし、
私はドラマの最後に、もっと違うものを見たかった。
自分のしでかしたことの重大さに気づきながら、
「兄ちゃんはやっぱりやさしかった!」が結論だったなんて、
ご都合主義にしか思えない。
ムショで7年暮らした稔は、どんなふうに変わっているのか。
殺人犯と言われて。
反駁する権利を奪われて。
家での「役割」を放棄できた「幸せ」と引き換えに、
どんな代償が心に刻まれているか。
稔は、弟をどう思っているのか。
「何をやってもやられても、血がつながっていればいつかは和解できる」は
あながちウソではないけれど、
何の努力もなく、アハハで済むほど簡単にいくものではない。
あちこちで「脚本賞」を獲得しているこの映画。
説明セリフを排しているところには、私も敬意を表するけれど。
この作品を評して「脚本が甘い」と感じるなんて、
私、ダメダメなのかも。
西川監督、ご自身の兄弟関係はどうなんだろう?
姉なのか、妹なのか。
ちなみに、
「この弟、どこまで甘えりゃ気が済むんだ?」と
ラストの笑顔に納得がいかない私は、姉である。

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