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「怒りの葡萄」


 怒りの葡萄 [CLASSIC MOVIES COLLECTION] / 洋画
ジョン・フォード監督、ヘンリー・フォンダ主演。原作はスタインベック。
いわずと知れた名作だが、若いころに一度テレビで見ただけだった。
今年の2月に「ヘルゾンビ」を観て、そこに「怒りの葡萄」がモチーフとして出ていることから、
ぜひもう一度観てみたいと思ってDVDを購入。
このDVDだけでは「ヘルゾンビ」を観て湧き上がった疑問はなんら解けなかったけど、
純粋に、一つの映画として面白かった。
「世界恐慌で超不景気なアメリカで、豊かな生活を求めてカリフォルニアへと家族で移住、
 しかし、労働者にとって、夢のような土地などなかった」
と、その程度しか印象がなかった私。(テレビもポンコツで、画面が暗かったし…)
今回、じっくり観たら、深~い映画だっていうことがよくわかった。
カリフォルニアへ移住する前の話が非常に胸を打つ。
異常気象で農作物が何年も不作だった小作農の村は、
地主によってあっさり「立ち退き」を命じられる。
「ここに何十年も暮らしてきたんだ! じいさんの時代から!」と叫んでも、
相手はブルドーザーを何十台とよこして、
暮らしなれた家をガンガンなぎ倒していってしまう。
たとえば、北京オリンピックを前にして有無をいわさず壊された胡同(フートン)の一角みたいに。
そんな時、
刑務所を仮出所してきた主人公・トムが帰ってくる。
夢見てきた「我が家」は、すでに立ち入り禁止。家族は親戚の家に身を寄せていた。
その親戚も、数日後には家を明け渡さなくてはならない。
「豊かな暮らしを求めて」ではなく、「行き場を失って」、彼らは西へと旅に出る。
高齢の祖父母、もう若くはない父母、妊娠中の妹とその夫、
まだ10歳にも満たない年の離れた弟妹も2人、そして親戚や友人も含め、
すべてを売り払った金の半分を投じて買ったオンボロトラックに乗り、
11人は西を目指す。
出発直前、母親は思い出の手紙を読み返しては火にくべ、楽しかった日々を懐かしむ。
大事にしていた品々の中から、いくつかだけは手放せず、ポケットにしまう。
太った母親の、短くてぽっちゃりとした指。
窓ガラスにぼっと映った皺の目立つ自分の顔をみつめるうつろな眼。
丁寧に彼女の仕草を追った映像に、じーんとくる。
出発直後、
「家を振り返らないのかい? いつもと感じが違うよ」と言われ、
「生れて初めて家を追い出されるんだから、感じが違って当たり前よ」と憤然と答える母親。
もう初老にさしかかる年齢で、積み重ねてきた家を追われ、
まったくゼロからの暮らしをどうしていくか。
大所帯を束ねるのは、この母親なのである。
そして、
年寄りにとっても、それは過酷な旅であった。
男たちにとっても、絶望が待っている。約束されたような仕事もない。
主人公はトムだけど、私はこの母親にばかり目がいった。
「女は流れていくもの。滝もあれば、渦もある。だから強くなる」のセリフは有名。
ここまで感情移入した背景には、年齢的なものもあると思う。
若いときには
「大家族で移住」「家を追われる」ということの重み、
「家財道具」一切を売り払って、全財産はこれからの旅の食料やガソリンに化けていくことの恐怖、
身重の身で何日もオンボロトラックに揺られることの辛さ、こわさ、
自分だってもう体が利かないというのに、年寄り二人の世話もしなくてはならない大変さ、
先が見えない暮らしの不安、
そんなものは、想像もできなかったし、想像しても実感が湧かなかった。
日々の暮らしをどうしていくか。
この家族の幸せを支えるには、何が大切か。
生活というものの重みを感じさせた作品だ。
世界中が、貧困のアリ地獄の縁で、今にも足を滑らせそうになっている今、
必見の映画かもしれない。
*「ヘルゾンビ」との関係は、原作を読まないとダメっぽいです。
 近々挑戦します。(若いとき、二度ほど手に取ったことはあるが、読めてません)

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