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「オフサイド・ガールズ」

「イランでは、女はサッカー場に行ってはいけないんだって」
と言われたら、
「え~、なんで~??」「意味わかんない」という人が多いだろう。
息子がオリンピックに出場する晴れ姿をひと目見たい、と
女人禁制のスタジアムに母親が男の中に紛れ込んだのは、
はるか昔の古代ギリシャの話。
この「オフサイド・ガールズ」は、
ワールドカップに出られるかどうかの大事な一戦を
どうしてもこの目で見たい!という女の子たちが男装してもぐりこみ、
それを取り締まる兵士たちとの対立と交流を描いた作品です。
この現代に、そんな風習残っているんだー、なんてあきれている場合ではありません。
ちょっと前まで、この日本でも、
同じようなことがたくさんあった。
「しこふんじゃった」という映画だって、
「女は土俵に上がってはいけない」というしきたりの中で、
男のナリをして相撲をする女の子が出てくる。
たとえ誰かを助けるためだとしても、
最短距離を走って土俵を駆け抜けることをためらい、
ぐるっと外側をまわってけが人のところへ行く女性も描いている。
「女はダメ」のタブーは、この日本にもたくさんたくさんあったのだ。
たとえば、私の中学時代。
「ハンドボールをやりたい」と思った友人は、入部希望を出すとはねられた。
「女だから」
「女一人でもやりたい。試合に出られなくてもいい。練習させて」
「それなら、髪を切ってこい」
つまり、女をやめろ、と。
彼女は、五分刈りかっていうほど髪の毛を短くして入部した。
創立以来の「椿事」だった。
サッカー場に紛れ込んだ孫娘を連れ戻そうとして、祖父が吐いた一言。
「そんなことをするために大学に行かせたんじゃない」
これも、日本のおとーさんたちが、よく言った言葉。
「いけない」を当たり前だと思って生きてきた人間が、
何かのきっかけで「これはおかしい」と思う。
それは、まさに「エデンの園のりんご」なのかもしれない。
男装してサッカーを「ナマ」で見たいとやってくる女の子たちは、
常連もいれば、初めての子もいるけれど、
みなたくましい。
サッカーを見られる見られないだけでなく、
「サッカーを見に来る女の子」に会えた喜びもまた、大きい。
「オフサイド・ガールズ」とは、
ちょっと行き過ぎちゃった、という感じ
足踏みつけたりするファウルのように「悪いこと」ではないけど、
「ルール違反」ではある、みたいな感じがよく出ていて
なかなかステキなネーミングだと思う。
私がもっとも感動したのは、
「あいつは絶対女だ」とわかってしまう変装だったとしても、
多くのサッカーファンたちは、見て見ぬふりをしているところだ。
命がけとまでは言わないが、警察につかまるのを覚悟で
それでも「世紀の一戦」を間近で見たいと思うその気持ちに
男も女もない。
それを、男性もわかっているのだ。
一つ二つの目こぼしはできる。
でも、女がタバになって一線を踏み越えてくるのがオソロシイ。
体制の、そんな考えが透けて見える。
その一方で、
女子がトイレに行っている間、
絶対男は一人も洗面所に入れまいとしてがんばる兵士の姿に、
「なぜサッカー場に女は行ってはいけないか」の奥底にある
やさしい男性の心遣いもわかってほほえましい。
一筋縄ではいかない「世間」というものを、
コミカルに、時にシリアスに、描いた作品。
サッカーを知っている人には、「あの試合の時にロケやってたのかー」と感慨もひとしお、
代表選手評や、自国の攻め方への厳しい批評に、
どこの国のサポーターも同じだな、とニヤリとすること請け合い。
また、
サッカーそのものの映画ではないので、サッカーを知らない人でも十分に楽しめます。
9月1日から公開。
ちなみにイラン本国では上映禁止です。
パナヒ監督の映画はほとんど上映禁止。
それだけ、核心をついている、ということでもあります。

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