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「大石最後の一日」

細川家にお預けとなった内蔵助(幸四郎)以下十数名。
非常に丁重に扱われ、
罪人というより客人に近い。
裁定がなかなか出ないのは、
幕府もできるだけ軽い罪にするよう考えをめぐらしているからでは?とさえ
憶測が飛び交うまま、50日余が過ぎる。
そんなときに、女だてらに小姓のなりをして、
赤穂浪士に近づこうという者がいた。
細川家に仕える堀内伝衛門が、旧友・乙女田杢之進の娘を手引きしたのだ。
内蔵助に見破られ、身の上を話し出したその女の名は、おみの(福助)。
おみのは磯貝十郎左衛門(染五郎)を婿に迎える約束をしたが、
結納の日になっても磯貝は現れなかった。
そして後日、討ち入りに参加したことがわかった。
おみのはただ知りたい。
自分はかくれみのの道具として利用されただけなのか、
それとも、
たとえ道具に選ばれたとしても、
そして捨てられたとしても、
いささかなりとも情愛を感じてくれていたのか。
それだけを知りたくて、ここまでやってきたというのに、
内蔵助はつれない。
磯貝の心を乱すだけだから、曲げて帰ってくれ、
何も言ってくれるな、
だまされたまま、磯貝を憎み続けるほうがずっといいはず、などと言う。
それに対して、おみのは敢然と立ち向かい、引き下がらない。
あなたは女心をちっともわかってない、
捨てられて、その上、磯貝の本心を疑ったまま生きろというのか?と。
福助、かわいらしい声と叫びとの振幅が大きい演技で真に迫る。
その激しい抵抗のしようが、見る者の胸を打つ。
わかるなー。
添い遂げたい、とか、そういうんじゃないんだよね。
ただ「私のこと、本当は好きだった?」
これだけを知りたいんだよね。
大石、折れて磯貝と会わせます。
今度は磯貝が否認する。「そんな女は知らない」とか言っちゃって。
否認する磯貝に向かって、大石が言う。
「お前、琴の爪を大事に持ってるだろう?」と。
それを聞くや否や、おみのの顔は恍惚として微笑む。
そして
「もう何も聞きません」と、それ以上の詮索をやめる。
かつて自分と琴を弾いたときの思い出を
磯貝がずっと懐で温めてくれていた、そのことを知っただけで十分なのだ。
忘れられていなかった。
私のことを、大事に思ってくれていた。
赤穂浪士に切腹の裁定が下されたと知り、
おみのは自らも腹を刺して自害に及ぶ。
おみのの家を再興することが決まっていたのに、と短慮を嘆く伝衛門に向かって、
「乙女田の家は、つぶしてください」と言い放つおみの。
「つぶしてください」ですからね。
恥も外聞も面子も何も、自分の恋の成就の前には、何の価値もない。
それを、
ただ主人のためにあだ討ちをし、そのために妻を離縁し、
あまつさえ、いまだ十五歳の息子をも死出の旅の道連れにした
大石の前で言わせる。
この脚本を書いたのは、真山青果。
忠臣蔵を愛しながらも、この二つを対峙させる批判精神は、すごい。

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