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七月大歌舞伎・夜の部「天守物語」

夜の部のメインは、泉鏡花の「天守物語」
玉三郎の富姫、海老蔵の図書之助は、13年前からで、
今回が四回目となる。
玉三郎は、泉鏡花の作品に並々ならぬ情熱を傾け続けている。
彼の演出の緻密さか、
舞台の隅々にまで気持ちが行き届いた、完成された舞台だった。
前半は、
富姫と亀姫の、おっとりとした中に人をくったような会話が光る。
亀姫初演の勘太郎。
思いのほかのかわいらしさの中に、
時々人間離れした残酷さをのぞかせ、
天然小悪魔といった様相が役にぴったり。
この物語は天守の上に棲む妖怪じみたものたちの営み。
美しく高貴ななりをしているが、
空をひとっ飛びで移動したり、
人の首を土産にもってきて、
「おいしそう」などという。
それを品よく、わざとらしくもなく、
そしてウソっぽくもなく見せなければならない。
勘太郎は玉三郎とのかけあいの間合いもよく、
安心して見ていられた。
亀姫が富姫に引けをとらず
姉・妹という同等のオーラを発して初めて、
この舞台は成功するのではないだろうか。
勘太郎はよくやったと思う。
後半は、
図書之助の清廉さが光る。
まっすぐで正直で、勇気があって礼儀正しい、
そんな図書之助が、
こちらもこの世のものとは思えぬ富姫と出会う。
美しいもの同士がみつめあう時間。至福の感情が溢れ出る。
暗闇に、二人の白い顔だけが浮かび上がるような
舞台装置もなにもないに等しい空間で、
玉三郎と海老蔵は私たちに濃密な演劇を見せる。
そのたたずまいと言葉に
圧倒的な力がある。
おそらく、
これ以外の配役はありえないだろう。
何一つ欠けるものがなく、どこにも弛みがない。
琴の糸がピンと張ったような
緊張感が心地よい舞台だった。
すべてが必然。
恋をしたことのある人ならわかる。
「返したくない」という富姫の気持ちも、
今度戻ってきたら返しません、といわれたにも拘らず、
戻ってきてしまう図書之助の気持ちも。
極度の緊張感のなかで進む凝縮された恋物語に、
私は息をするのも忘れるくらいのめりこんでしまった。
美術も秀逸。
背景に合わせ、黒子が白(生成り?)の衣装だったのも新鮮。
そしていつもながらとはいえ、
玉三郎の打ち掛けに言及しないわけにはいかない。
特に、最後に来た薄墨のものには惚れ惚れした。
また、
中央奥に配されていた大きな獅子頭。
やがて動き出すのだが、
この動きがとてもリアルで感心した。
右に左にと機敏に走り回り、
そのたびに長い毛並がゆったりとうねる。
本当に生きているようだった。
筋書きの配役表を見ると、
獅子は井殿雅和・岸本康太とある。
名前が出ているだけのことはある。

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