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2018年・カンゲキのまとめ(2)歌舞伎・文楽

今年の歌舞伎界は、高麗屋三代同時襲名に始まり、秋には福助の復帰、年末に阿古屋トリプルキャストと話題満載でした。
一つ挙げるとすれば、やはり「阿古屋」でしょうか。
舞台上で箏、三味線、胡弓の三曲を全て「完璧に」弾きこなせなければできない特別なお役、と言われてきた阿古屋を、次世代に渡すどころか次々々世代くらいの若手二人にやらせてしまった玉三郎の英断は、おそらく歌舞伎史上に残る「事件」だと思います。
それは「この二人に継ぐ」ではなく、「この二人さえやるんだから、他の人もどんどんチャレンジなさい」の一斉スタート合図なのです。
「おやんなさい」の指南ではありましたが、ご自分の演技に関しては、彼らに「果たしてここまで来れるかしら」の到達点を、どんどん上に押し上げるパフォーマンスでした。まだまだ進化する玉三郎です。
今年のMVP=坂東玉三郎
松本白鸚の由良之助、片岡仁左衛門の平右衛門とともに演じた「一力茶屋」のお軽は、絶品というほかに言葉がないほどの代物で、この人年々若返っているのでは?と思うほど美しかった。それは「吉野山」の静御前も然り。見るだけで人を幸せにする力を持っています。
その玉三郎が今年新作歌舞伎舞踊を2作披露しました。「幽玄」と「傾城雪吉原」です。
「幽玄」は鼓童とのコラボレーションによる組曲。私は3階から見ていましたが、「羽衣」は、能の「羽衣」を玉三郎はどう解釈しているのかを表した作品だと感じました。また、終盤で見せたフォーメーションの変化は、まるでKバレエの「白鳥の湖」のラストを思わせる壮大さで、彼の舞踊が西洋で高く評価される理由がわかった気がします。
ただその分、「歌舞伎味」は薄まっていたかもしれません。従来の歌舞伎ファンからの支持は高くありませんでした。好き好きですが、私も、「羽衣」以外の曲については、あまり心を動かされませんでした。
「傾城雪吉原」については12月の「カンゲキのまとめ」にも書きましたが、私は今年のベスト1に挙げたいくらいぞっこんに惚れ込みました。幕開きに散らつく雪、ゆったりと格調高いお囃子、柔らかな長唄の調子。花魁道中の記憶を遥かに辿りつつ、恋文を読んで男の影を追う女。初めて会った時の恋の予感、花火のような逢瀬、そして秋風とともに忍び寄る別れの予感…。あの幸せは、嘘か真か、夢か現か。すべてを受け入れて、彼女は花魁として次の1日を生きていく…。ほとんど歩くだけの玉三郎は、その「歩く」だけの中に、吉原の籠の鳥でありながらも本当の恋に命を燃やそうする傾城の春夏秋冬を見事に描き尽くしました。
「歩く」のバラエティが歌舞伎を支えているとはよく言われます。これは新作でありながら、歌舞伎の真髄に迫った秀作と言えましょう。
今年の最注目俳優=中村児太郎
もう一つ、特筆すべき人物が中村児太郎です。児太郎の成長ぶりについては、数年来このブログでも何度となく指摘してきましたが、ついに「成駒屋」を背負って立つだけの格の大きさを身につけました。
父・福助の復帰舞台で会った「金閣寺」で勤めた雪姫のあたりから、それまでとは明らかに異なるオーラを放ち始めたのです。「阿古屋」はもちろんまだまだ、とは言いながら、「児太郎の阿古屋」と思われる風情を醸して好評でした。来年も目が離せません。
今年の新人賞=中村勘太郎
まだ7歳ながら、平成中村座「舞鶴五條橋」の牛若で大人の芸を見せつけた勘太郎。熟年あるいは高齢の歌舞伎ファンに、あと30年は生きて、彼の行く末を見届けなければ!と心から思わせた瞬間です。
また、中村鷹之資も出番が多くなってきました。その他大勢で踊っていても、「あれは誰?」と自ずと光る逸材。彼が歌舞伎座のまん真ん中に弁慶として立つ日を、こちらも待ちきれない私です。
文楽については、人形遣いでは玉助、太夫では織太夫襲名とビッグイベントが続きました。とりわけ織太夫は、襲名を機に大きく飛躍したと評価が高いです。
ただ、切場語りは咲太夫のみで、太夫間の実力の差、経験の差が眼に余る公演もありました。
太夫陣には、ぜひとも踏ん張って、一段上の芸を身につけていただきたいとエールを送ります。
その他の芸能については、数を見ていませんのでコメントは避けます。

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