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「BLOOD BROTHERS」@シアタークリエ

イギリス・リヴァプール。
デキ婚の上に子沢山で、結局亭主に逃げられた
ジョンストン夫人(TSUKASA)は、
家政婦として働きに行っているライオンズ家の夫人(久世星佳)から
身ごもっている双子の一人をもらえないかと相談をもちかけられる。
養子を認めない夫が長期に出張中なのに乗じ、
自分が生んだようにみせかけ、実子にするという。
貧困にあえいでいたジョンストン夫人は、
子どもにいい思いをさせられるチャンスかもしれない、と
子どもを譲る約束をしてしまう。
双子のうち、エディ(田代万里生)はライオンズ家に引き取られ、
ミッキー(藤岡正明)は家に残る。
まったく異なる階級社会に隔てられて育った二人は、
血に引かれ合うように出会い、
本当の兄弟であることは知らぬまま
同じ誕生日であることから義兄弟の誓いを立てる。
楽しい子ども時代は過ぎ、大人になると
社会の荒波が、二人の絆をひきちぎろうとする。
悲しい結末は、運命だったのか??
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
この作品は、
脚本・音楽・歌詞すべてをウィリー・ラッセル一人で作っている。
フォークソングのシンガーソングライター出身だけに、
ミュージカルの王道を行くという感じではない。
どちらかといえば、セリフが先行するドラマで、
藤岡と田代は数少ない歌を素晴らしい歌唱力で綴る。
歌が少なすぎてもったいないほどだ。
モチーフとなる歌はほとんど、
ジョンストン夫人と狂言回しのナレーター(下村尊則)が歌う。
下村は、ただ一人「我はミュージカルなり」という歌い方で
会場を圧倒。
その、ちょっと場違いな感じが、
「悪魔の囁き」めいたナレーターの雰囲気を醸し、かえって効果的だった。
(下村は、四季退団後初、二年ぶりの舞台となる)
ジョンストン夫人のTSUKASAは、
多少声が荒れ気味でいっぱいいっぱいな様相は見せるものの、
労働者階級のど根性的性格をしっかりと表現して
久世のインテリ上流夫人らしさの対極が冴えた。
エディからの愛を感じつつ幼なじみミッキーと結婚したリンダには
鈴木亜美。
幕間にパンフレットを買って「鈴木亜美」の名前を見ても、
どの役をやっているのかわからないくらい、タレントっぽさがとれていて
驚いてしまった。
舞台にはなじんでいたが、
ミュージカル俳優としてやっていくだけの力量があるかどうかは、
前述のとおりオーソドックスではないこの作品ではわからない。
歌に関しては、
ソロやデュエットはよいのだが、
合唱になるときちんとメドディーが聞こえてこない。
自分が歌うだけでなく、人の歌声を生かすことを考えるべきだろう。
それもこれも、全員の声量(発声法も含め)が違いすぎて起こる現象。
全体的に男声優位。
いろいろ難点はあるものの、
何もかもさしおいて、
一幕の「子ども時代」の演出が秀逸。
ここを見ていると、本当に幸せな気分になる。
ピーターパンの島に迷い込んだみたいだ。
全員オトナだけど、
子どもがやってるがごとく、自然。
特にミッキー役の藤岡は、背まで小さく見える。
「子どものように演じるのではなく、子ども時代を思い出せ」という
演出家・グレン・ウォルフォードの言葉が結実している。
前半(一幕)の、この「子ども時代」があまりに楽しいために、
転がり落ちるようにミッキーに不幸が襲い掛かる後半(二幕)が悲しい。
特に幕切れ。
あまりに突然やってくる結末に、
きっと「二人」は、何も納得していないのではないか、
きっと成仏できてない、と思ってしまった。
(その余韻を残さず、すぐに明るいカーテンコールになってしまうのが、
 私にはちょっと不満)
誰にも救いのない物語だけれど、
去りがたい魅力がある。
「生まれ」がすべてを決めてしまうという
超・格差社会のイギリスのうめき声が
「なんでお前にはすべてがあって、俺には何にもないんだ?」という
ミッキーの嘆きに集約されているようだ。
イギリスでは初演の1983年以来、どこかの劇場で必ず上演されているのは
いつの世になっても人々の共感を呼ばずにはいられないからかもしれない。
明日の昼公演は、藤岡、田代、田代の属するESCOLTAのメンバーで
「ミニトーク&ライブ」も付いている。
私も、そうと知ってれば明日行ったものを…(悔)。
藤岡のたっぷりとした太い声、
田代のあっという間に高音にたどり着く清清しい声、
どちらも心地よい。
*演出のグレンと仕事をしてきた大澄賢也が、
 振付とステージング(演出補)を担当している。
*主演はWキャストで、公演の前半は、ミッキーが武田真治、エディが岡田浩暉だった。
 ジョンストン夫人も金志賢とのWキャスト。

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