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「ヘンリー四世」おもしろすぎ!

この前見た舞台「KEAN」で、
主役のシェイクスピア役者・キーン(市村正親)と皇太子との関係を
周囲の人たちは「ヘンリー四世」の中の
フォールスタッフとハル王子に重ね合わせて笑っていました。
放蕩の限りを尽くすしょーもない王子と、
そのしょーもない王子の「悪い仲間」・フォールスタッフ。
私はシェイクスピアの戯曲「ヘンリー四世」は未読・未見だったので、
これを機会に読んでみました。
私が読んだのは、白水Uブックスから出ている小田島雄志訳のものです。
ヘンリー四世(第1部)
ヘンリー四世(第2部)
いやー、
面白かった!
日本で舞台にかかったのは、
1931年(昭和初期)、
1967年(劇団四季、フォールスタッフ役は田中明夫)、
1979年(シェイクスピア・シアター)、
1982年(劇団昴、フォールスタッフ役は小池朝雄)の四回だけということです。
第一部、第二部、それぞれ独立しても上演されるという長さであることも、
上演回数の少ない理由の一つかもしれませんが、
読んでいるだけで、登場人物の面白おかしさが目に浮かび、
自分の背後から観客の笑い声が聞こえてくるような
躍動感あふれる、楽しい舞台です。
また、
シェイクスピアの戯曲には、
「こんなこと書いて何になるの?」と、すっ飛ばしたくなるほど
ワケのわからないコトバ遊びが延々続くところが多いのが特徴で、
その辺りは翻訳者泣かせなのですが、
小田島さんの「ダジャレ」が冴えまくってまして、
シェイクスピアって日本人だったっけ?っていうくらい
自然なコントになってます。
欽ちゃん劇場か、てんぷくトリオか、志村けんのバカ殿か?
っていうくらいのベタなお笑いの中に、
ふと湧いて出る長ゼリフが非常に意味シンで、
人生の妙を感じさせます。
たとえば、騎士として戦場に赴いたフォールスタッフが、
死ぬのはヤだなー、と思って吐くセリフ。
「(前略)いざとなって、
 その名誉のおかげでおれが突き刺されでもしたらどうなる?
 そうなったら、名誉が足をもとどおりにしてくれるか? まさか。
 腕は? だめだ。
 傷の痛みをとってくれるか? これもだめだ。
 じゃあ名誉には外科医の心得はないのか? ない。
 名誉ってなんだ? ことばだ。
 その名誉ってことばになにがある? その名誉ってやつに?
 空気だ。
 けっこうな損得勘定じゃないか!
 その名誉をもっているのはだれだ?
 こないだの水曜日に死んだやつだ。
 やつはそれにさわっているか? いるもんか。
 聞こえているか? いるもんか。
 じゃあ名誉って感じられないものか?
 そうだ、死んじまった人間にはな。
 じゃあ生きている人間には名誉も生きているのか?
 いるもんか。なんでだ?
 世間の悪口屋が生かしておかんからだ。
 だからおれそんなものはまっぴらだと言うんだ。
 名誉なんて墓石の紋章にすぎん。
 以上でおれの教義問答はおしまいだ」
イタイのが嫌いな弱虫、卑怯者。
そんな飲んだくれに言わせた言葉ですが、
遺骨の代りに紙切れ一枚しか入っていない白木を
「名誉の戦死」とありがたくおし戴いて、
陰で涙にくれていた家族には、
とても酔っぱらいのタワゴトと片付けられない真実が
つまっているセリフといえましょう。
「ヘンリー四世」というお話は、
一つには、
フォールスタッフという酒飲み・ウソつき・女好き、
あけすけで本音丸出しで生きる怪人物のハチャメチャ人生の豪快さが魅力で、
もう一つには、
そのフォールスタッフと遊びまくって警察沙汰も多かったバカ王子が、
父・ヘンリー四世の死によって王・ヘンリー五世となった途端に襟を正し、
名君になったという事実をなぞらえているのが特徴です。
なんでもヘンリー五世というのは人気の王様だったらしく、
「終わりよければすべてよし」
「彼は昔の彼ならず」とは、
このハル王子のために作られた言葉のようにさえ思います。
クーデターで王になったヘンリー四世が、
その時自分のお先棒をかついでくれていた「片腕」たちに
今度は反旗を翻される、という政変が物語の縦糸になっているので、
「彼ら」の戦争に巻き込まれる庶民の迷惑や、
村々から男性が兵士として駆り出される顛末も、描かれています。
また
15世紀のイギリスも、21世紀の日本も、
政争というのはそれほど変わりがないらしく、
フィクサーだけで「次の総理は誰にする?」と話し合っている場面とか、
「昨日はボクと一緒にやるっていってくれてたのになぜ?」とか、
「キミは味方だと思っていたのに」
「オレはキミを総理にするための踏み台なのか?」
みたいな会話にもとれ、
非常に真実味がありました。
しかし日本とぜーんぜん違うところは、
このお芝居が、
時代が下って新しい王様のお披露目である戴冠式の日には、
そのたびにいつも好んで上演された、という事実!
それも、その日のお代は無料というからすごーい!
(江戸時代、「忠臣蔵」があっという間に作られて上演されたのと、
 心意気は通じるものがあるかもしれませんね)
シェイクスピアも晩年は重たい悲劇が多くなり、
そこに名作もたくさん生まれるのは事実なんですが、
この「ヘンリー四世」の筆のノリは、
そうですね、
冴えてるときの三谷幸喜とか、そういう感じ?
「シェイクスピア劇でござい」となるから集客できないんであって、
これ、
政治コントで今やひっぱりダコの「ザ・ニュースペーパー」を中心に、
お笑い芸人たちをうまく配役してやったら、
ものすごーく受けると思うんだけどなー。
そこに伊東四朗とか、
ああいうホンモノの喜劇役者を配すれば、
ぜーったい面白くなると思う。
放送作家さん、誰かやりませんかね。
「特番」の企画としていかがですか?
楽屋落ちのネタや、使い古された一発芸、
お笑い芸人なのに歌を歌わせて視聴率をとろうとしているTV局は、
ぜひトライして新境地を開いてください。

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