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「クルマが鉄道を滅ぼした~ビッグスリーの犯罪」


クルマが鉄道を滅ぼした増補版
アメリカの自動車メーカー・GM(ゼネラル・モーターズ)が
とうとう破産に追い込まれました。
昨年トヨタに抜かれるまで、
GMは「売り上げ世界一を誇っていた」と言っても、
1970年代のオイルショック以降、
低燃費を心がけた日本車が徐々に市場に受け入れられ、
「図体ばかり大きくてガソリンを食う」アメ車は、
一部の愛好家をのぞき、「流行」とはほど遠く
もはや凋落傾向の一途をたどっていました。
だから、
「ほんとに破産しちゃうんだ」という感慨をもったり
その経済的社会的影響の大きさに心を痛めたりはするものの、
どちらかといえば驚きよりも、
来る時が来た、という感じのほうが強いです。
ここまで時代に逆行して経営していれば、
ある意味、破綻は当然。
じゃあ、
どうしてそこまで強気でふんぞり返っていられたんでしょうか?
その秘密の一端がわかるのが、
「クルマが鉄道を滅ぼした~ビッグスリーの犯罪」です。
アメリカがクルマ社会なのは、ビッグスリー
とりわけGMの、壮大な戦略によってもたらされていた、というのです。
まずはバス・トラックを製造してバス会社、トラック会社と契約を結ぶ。
ここまではフツーです。
次にバス会社を買収、あるいは設立して、運営にもあたるようになります。
これもまあ、フツーかも。
そしてここからがすごい。
ライバル会社である鉄道会社も買収して傘下におさめちゃうんです。
そして
鉄道の路線を少なくしたり、料金体系を高く設定したりして、
「バスのほうが便利」「トラック輸送のほうが低コスト」な状況を作る。
使い勝手の悪い鉄道は客離れを起こし、やがて廃れていきます。
つまり、会社をのっとっておいて、その会社をつぶしにかかったわけ。
次に、バスと自家用車の競争。
せっかく鉄道に勝ったバスの路線網を、今度は縮小していきます。
「バスより自家用車のほうが、便利」な状況を作るために。
そうやって、
低コスト、低エネルギー、大量輸送が可能な公共交通は、
アメリカから次々と姿を消していったそうです。
「それしか選択肢がない」状態をつくり出し、
GMの自動車がいいと思わせる。
本当に消費者が望むものではなく、
周りのパフォーマンスを意図的に抑制した結果の、
「相対的」なクルマ優位なのに、
人々は気づかない。
自分たちがちゃんと考えて、「いいもの」を選んだ結果だと思っている。
著者のブラッドフォード・C・スネルは、
あまりに寡占状態の自動車産業で、
企業間の競争力がまったく働かないことにより、
企業の目的(=もうかる)によって社会が造りかえられてしまったことを
この本で実証しようとしています。
もちろん、
国の優遇政策も大きく働いています。
日本もこの経済危機にあって、
抑制にかかっていた「ハコモノ」行政がどーんと予算に組み込まれたり、
高速道路を使ってください!と料金を安くしたり、
前時代的な政策に逆戻りしている感があります。
いいのかね?これで。
「京都」議定書っていう日本の都市の名前がついているプロジェクトで
省エネルギー技術の最先端を行く日本がリーダーシップをとる、
などといきまいていたのに、
中間目標が4%「増」なんて試案が出てたりして、
「そんなこと、世界の笑いものになるから言えません!」って
環境大臣が記者会見で言っちゃうっていう……。
環境立国っていうには、あまりにもおサムい。
国がどっちを向いているか、
企業が、国をどっちに向かせているか。
つくづく、
政策とは哲学だと感じます。
ビッグスリーの「犯罪」は対岸の火事ではなく、
身近にあるのかも。
私たちの気づかない、いろいろな仕掛けがあるかも、と
背筋がぞっとした本でありました。

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