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「陸(おか)に上がった軍艦

新藤兼人氏が、「陸(おか)に上がった軍艦」というシナリオを書いたのは、
1994年だという。
今から13年前。
「どうしても残しておきたい」軍隊生活の記憶。
勇敢な軍記物語ではなく、
いきなり「最下層一兵卒」にさせられ、
「人間」から「軍人」それも「軍人のくず」と呼ばれる日々について。
あまりに理不尽な「いじめ」的訓練について。
あまりにばかばかしい「作戦」について。
踏みつけにされ、疲弊させられ、
反論したり、自分の意見を持つ気力もなくなって
ただのロポットになっていくその過程を。
その中で、命を落とし、あるいは心を踏みつけにされ廃人同様になった者たちの生きた証を。
80歳の新藤氏は、きっと今よりずっと気力も体力もあったろうが、
哀しいかな、カネがなかった。
カネがとれるテーマでもなかった。
それでも「どうしても撮りたい」。
その思いを、平形則安プロデューサーが形にした。
ドラマとしての最初の脚本に、ドキュメント部分をさしはさむことで製作費を抑えるなど、
資金面での苦労・工夫がしのばれる。
しかし、おそらく全編ドラマより、ずっとリアリティーが増したのではないだろうか。
昔むかしの話ではなく、
今生きている人が実際に体験したことなのだという実感が
「戦争を知らない」私たちにこの映画をより身近なものにさせるのだ。
90代の新藤氏の本を、形にしたスタッフには、
前述の平形氏を含め、40代後半から50代が中心。
監督の山本保博氏も、撮影の林雅彦氏も、海老根務氏も。
「戦後は終わった」と言われた昭和30年前後の生まれ。
私もそうだが、この世代の子ども時代、まだまだ戦争の記憶はそこらじゅうにあった。
「戦争を知らない子どもたち」をフォークギターかき鳴らして合唱していた世代である。
そして、ドラマ部分を演じるのは、
さらに1世代新しい20代から30代。
「昔の日本人の顔を意識して」キャスティングした、というだけあって、
「プクプクほっぺ」「ぽっこりお腹」の兵隊さんはいない!
これは、はっきり言ってこの映画の成否を大きく分けたと思う。
精悍な男たちの立ち居振る舞いは、
本当に「昔の」戦争映画をほうふつとさせた。
新藤自身を演じる蟹江一平は、
今NHKの朝の連続ドラマ「どんど晴れ」で、板前の浩司役を好演している。
妻を亡くしたばかりで兵隊にとられた新藤の、人生を半ばあきらめたような静かさを
それでもほとばしる「生」への本能とともに自然体で表している。
出色は、大地泰仁。
軍内の不祥事の犯人に仕立て上げられてしまう植村役の、
「声をかけると、何か不吉なものが、自分に降りかかって来るような感じ」がしたという
その異様なたたずまいを、ほとんどセリフなしで鮮やかに演じている。
ラスト近く「死んでは、おしまいだ」というセリフが、いよいよ重い。
家族にとってかけがえのない人の死は、
「もう何もかもが破壊されるような大きなこと」なのに、
「大局からみれば、戦略的に一人の兵が死んだ」だけのこと、という新藤氏の言葉を、
かみしめたい。
戦争は、ゲームではなく生活だ。
この映画はそれを、
ある時は滑稽に、
ある時は切実に、描いている。
「戦争映画」が一般的に持つ重苦しさはない。
淡々とした戦時中の日常が、
かえって不条理を浮かび上がらせている。

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