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「モード家の一夜」


DVD モード家の一夜
昨日に引き続き、エリック・ロメールの映画。
白黒映像にこだわって描かれた「モード家の一夜」は、
かの有名な「男と女」の主演をして一躍有名になった
ジャン・ルイ・トランティニャンが主役。
敬虔なカトリック信者である彼は、
片田舎に赴任して数ヶ月だがなんとなく周囲と打ち解けられない。
ただ一つ、
教会でみかけた金髪の若い女性に心ひかれ心ふるわせるものの、
まったくの他人に声をかける勇気もない。
そんな中、ひょんななりゆきから
黒髪の美人女医・モードの家で一夜を明かすこととなる。
無信仰者である彼女の挑発的な誘惑を受けながらも、
「愛について」一晩中語ってなんとか受け流そうとする。
気がつくと、一つ布団にくるまって
朝を迎えてしまうのが日本の映画の風景だとすれば、
たとえ同じベッドに寝たとしても、
自分の愛の世界にひきずりこもうとコトバを駆使し、
朝まで持論を展開するうちに世が明けてしまう…。
それを「しくじった」と思わず、また別の「悦楽」と感じる
フランス文化ならではの愛の物語だ。
ぶっちぶっちキスしまくっても「これは友情のキス」で済み、
惹かれあえば数分後にはベッド・インして愛を交わすのもフランス風なら、
こんな魂の物語をマジメに描きながらも、
悟りを開いた朴念仁の潔癖さではなく、
哲学にさえエロチシズムを漂わせられるのもまた、フランス。
そして
監督のエリック・ロメールの頭にあるのは、パスカルの「パンセ」。
舞台となる田舎町も、パスカルの生誕地だ。
映画の根底にあるのは、
「愛とはなにか」「信仰とはなにか」
「信仰しない者が愛と哲学に求めるものはなにか」という
深い、深~い洞察である。
「私は愛に何を求めているか」
「私は愛にどうあってもらいたいか」
これらの問いに対する答えは
もちろん人によって異なる。
その違いを、コトバでときほぐし、映像で見せる。
かつて哲学と映画と文学が密接にからみあっていた
ヌーベルバーグの時代にできあがった
心の葛藤を美しいモノクロ画面におさめた秀作である。
DVDには、特典映像として、
哲学者と神父がパスカルの「パンセ」について論じ合う
教育テレビの番組「パスカルについての対談」
(これもロメールが演出)もついている。
若いときにいかに「パンセ」に衝撃を受けたか、
またそれから数十年経った今、それをどう読み解くか、
人生をかけた命題についてそれぞれの持論を吐露する二人。
立場的には一見対立しているように見える同年代の両者が、
実は非常に根本のところでパスカルを同様に理解し、愛し、
それぞれの人生に大きな影響を及ぼされたであろうことが
手に取るようにわかる。
ものごとの表と裏、
同じことを受け入れてもその後に出す「だから」の答えの違い、
そんなものを感じずにはいられない。
対談の冒頭は、確かに司会者がいて論を促しているが、
その後は司会が入る1ミリの隙間もなく、
二人が流れるようにまったくムダのない対話を続ける
見事な思考のキャッチボールが
パンセを理解し愛した二人にしか作れない世界を繰り広げる。
非常に重層なDVDとなっている。
この対談だけでも一見の価値あり。

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