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「ロード・オブ・ザ・リング」(全三部作)


ロード・オブ・ザ・リング
ロード・オブ・ザ・リング」は、トールキンが書いた児童文学の金字塔「指輪物語」の映画化である。
世界を支配できる力を持つ指輪を「悪」に奪われぬよう、
その指輪を破壊できる唯一の方法、「その指輪を作った火山の火で溶かす」という使命を負った
ホビット(小人族)のフロドとその仲間たちの旅の物語だ。
私は原作を読まずに映画を先に観た。
作品の深さに完全に引き込まれたのは、「第三部」を観た年だったろうか。
今まで、よく理解できなかったすべてのことが、
パズルのようにはまってきて、「なるほど」とどんどん腑に落ちていく。
そしてもう一度第一部から観てみると、
物語が言いたかったことが、胸に迫るようになった。
たまたま親戚のおじさんの誕生日に「指輪」を譲ってもらってしまっただけのフロドが
気がつくと、世界の生死を握る重責を負っている。
力の弱い小人族の、それもまだいたいけな少年を中心に、妖精とか魔法使いとか人間とかが、
「フロドを守るため」に命を捧げる。
フロドの遊び仲間は、なりゆきと好奇心からその旅について行き、様々な苦難に出会う。
この理不尽さ。
なぜフロドなのか。なぜサムなのか。
そうした不可解さを抱いたまま、常に死の危険と隣り合わせの旅が続く。
そこには「主人公だから助かるだろう」的な安易な場面は一つもなく、
真っ黒に汚れ、傷つき、疲れ果てたフロドたちの精魂尽き果てた様子は、
観ているこちらにも緊張感と疲労をもたらすほどだ。
この映画でわかることは、二つ。
一つは、「誰の心にも弱さはある」
だから、一人ではなく、仲間とともに生きよう、ということ。
フロドはバランスのとれた精神をもつ男だけれど、それでも人を疑うこともあれば、
自分の中の欲に勝てない時もある。
彼を支えてくれたのは、いつもフロドとともにいてくれたサムだ。
サムは小太りのさえない男だけれど、
自分のできる限りのことをやっていくうち、肝のすわったたくましい青年へと成長する。
疲れきったフロドをギリギリのところで鼓舞するのは、いつもサムだ。
フロドとサムは、どちらが欠けてもこの世を救えなかったといえる。
もう一つが、「誰もがやらねばならぬ使命を負う」
そしてそれは「明らかな理由があるわけではない」ということ。
なりゆきや状況で、その役割を担ったとしても、全力で立ち向かうしかない。
そして、誰でもやり遂げることができる、というメッセージなのだ。
次々と死んでいく同僚を傍らに、それでも戦い続ける戦士たち。
それでも指導者は「持ち場を離れるな!」と叫んでまわる。
「犠牲者大勢、チャンスはちょっぴり。・・・やろうじゃないか」という男たち。
「帰りの水がなくなってしまう」と呟くフロドに
「帰りの旅はないと思います」と厳然と言い放つサム。
そこにあるのは「覚悟」だ。
無鉄砲な行為がすべて賞賛されることを、私は好まない。
玉砕よりも逃げ延びること、これも大切だと思っている。
けれど、この話を観ていると、
「誰にも頼れない時、自分の力をギリギリまで発揮しろ」ということは
大切だな、と思う。
もう走れない、もう考えられない、もう動けない、どうしていいかわからない。
そこからもう一歩、何とか前に進むことはできないだろうか。
自分の1分のがんばりが、
世界のどこかの誰かの命を救うことにつながるかもしれない。
フロドのようにもっともわかりやすくヒロイックな使命を負う者もあれば、
そのフロドを救うために、違った役割を担う者もいる。
この世に「必要のない者」などいないのだ。
私が好きなシーンの一つは、すべての旅が終わってホビットの4人が故郷に帰ってからのもの。
立ち寄った賑やかな酒場でビールジョッキを前にしながら、4人はなぜか浮かない。
壮絶な13ヶ月の戦いを経験してしまった後では、
あれほど夢に描いた故郷なのに、手放しで楽しむことなどもうできないのだ。
たとえば、ベトナム戦争やイラク戦争から帰還した兵士たちが、
平和な日常に適応できないのと同じように。
あるものにとっては、それは時間が解決してくれる。
しかしあるものには、もはや故郷は安住の地ではない。
それを感じさせる第三部のラストシーンは、
美しくもあり、心が塞がれるようなせつなさもまた、後を引く。

『ロード・オブ・ザ・リング』三部作の完結編・王の帰還

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