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「人生の歩き方」石川文洋とベトナム戦争

NHKの「知るを楽しむ」で、
昨日、報道カメラマン・石川文洋さんの「人生の歩き方」第一回をやっていました。
テーマは「ベトナム最前線で」。
26歳の時から4年間、アメリカ軍の従軍カメラマンとして、
ベトナム戦争の「現場」を肌で感じ、すべてを記録してきた石川さんが、
30年たった今のベトナムを訪れます。
この前TSプロジェクトの「タン・ビエットの唄」を見たばかりだったので、
本当に生々しかったです。
石川さんが当時お世話になっていたサイゴンの家はとても豊かになっていて、
「下宿人」だった石川さんを笑顔でもてなしてくれます。
亡くなってしまったおばあさんの思い出話にしみじみ涙ぐむ人々。
すてきな心の交流でした。
一転、
石川さんは自分の撮った写真の現場である農村に赴きます。
ヘリの上から爆弾をたくさん落とす。
ナパーム弾といって、焼夷弾みたいにヤシの葉を焼き尽くす爆弾。
あらわになった村々を、今度は6000発の機関銃の雨。
ヘリの上からは、
逃げ惑う女・子どももわかるそうです。
アメリカの従軍カメラマンでありながら、
石川さんは「アメリカ人に、こんなことをする権利があるのか?」という思いで、
写真を撮り続けたといいます。
ほとんど焼き尽くされ、撃ち殺された村に降り立ったアメリカ軍は、
男たちを捕虜にしていきます。
体に7発の銃弾が打ち込まれた男性が、連れて行かれました。
おそらく妻だろう女性が何か言葉をかけていた。
石川さんの写真に、この二人が写っています。
30年前にヘリで降りた場所の近くで、
その男性は今も住んでいました。
3ヶ月の捕虜生活の末、返されたそうです。
その時、彼に左足はありませんでした。
「7発撃たれた時、どんな感じでしたか?」
「奥さんは、何を話しかけたんですか?」
草むらの上に、右足だけを投げ出すようにして座るその人は、
石川さんに何を聞かれても、
「覚えていない」とうつろに呟くだけです。
そんな男性に、石川さんは当時の写真をどんどん見せます。
テレビを見ているこちらまで、彼の苦しみが伝わってきます。
こんなふうに、インタビューする勇気が、私にあるだろうか?
彼の、思い出したくない思い出を掘り起こす権利は、
あるのだろうか?
村に帰った後、
男性はつらい捕虜生活もあり、奥さんにあたり散らしたといいます。
片足をなくし、農村ではやっかい者でしかない自分を
彼自身、受け入れられなかったこともあったでしょう。
奥さんは、子どもを連れて出て行ってしまいました。
「自分には何も残っていない」
「足もなくて、働けもしない」
彼は写真を握り締め、涙を流し、少しずつ語り始めます。
「タン・ビエットの唄」の中、
主人公が農村を訪ねるシーンがあります。
たずねたミンはとっくに死んでいるんですが、
ミンのお父さんは事実を受け入れていません。
「英雄の息子」が「帰ってくる」という夢の世界で生きています。
つらすぎる過去を封印することでしか、日々を生きられない人々が、
本当に、今の、この時代に生きていました。
「今、ベトナムの都市部は豊かです。でも、ベトナム戦争でもっとも被害を受けた農村が、
いまだにこんなに貧しいことにショックを受けます。
彼らにこそ、もっと支援の手が必要。
アメリカは戦争責任をとるべきです」と、石川さん。
サイゴンの下宿にいた人たちは、
石川さんが撮ってくる写真を「こわかった」と言っていました。
「こわかったけど、あの写真があるから、みんな戦争は早く終らせなくてはと思うんじゃないかしら。
日本でベトナム戦争反対の運動があったのも、写真を見たからでしょう?」
穏やかに話す女性の言葉は重かった。
石川さんの写真が語るものは計り知れない。
自分の住んでいる農村が、かつてどんなに蹂躙されたか。
隣りの足のない貧しいおいぼれじいさんが、
若いとき、どんな目にあったのか。
村の少年少女が、石川さんの持っていった写真集を、
食い入るようにみつめています。
大きく目を見開き、あるいは目をそむけ、
大勢群がって、むさぼるように。
あまりにむごすぎて口に出来ず、
次の世代にもその次の世代にも語り継げなかった村の歴史を
石川さんの写真が初めて伝えているのです。
そこに、歴史が記録されていることの、重要さ。
アメリカ軍について、
銃口と同じ方向からカメラを向けるアジア人に、
当時のベトナムの人々はどんな気持ちを抱いたのでしょうか?
彼らの視線を浴びながら、
ファインダーをのぞき続ける石川さんの心は、
どんなに苦しかったことでしょう。
その時、彼の持っていた使命感の強さが、
当然持っていたやさしい心がちぎれそうになるのをどうにかとどめ、
やり遂げた「mission」が、そこにあります。
「いい人」なだけでは、世界は変えられない。
苦しみを伝えるには、もっと苦しまなければならない。
一人ひとりのアメリカ人が「いいヤツ」だったこと、
その彼らが、ひとたび命令が出れば、どんどん人を殺していくこと。
「戦争が始まったら、『自分は殺したくない』などといえなくなります。
それに、自分の気持ちも変わってきます。
殺すようになるんです」
彼の言葉は、深く深く、心につきささった。

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