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八月納涼歌舞伎(第二部)「船弁慶」

この前、勘三郎さんの対談番組を取材したとき、
「船弁慶」の静御前をやるにあたって、衣装の話が出た。
「(六世)尾上菊五郎、つまりオレのじいさんが
 80年前、英国王の第三王子・グロスター公が国賓として来日した際に一度だけ
着た衣装というのが、
 まわりまわってつい最近、手に入れることができたんだ。
 孫のオレのところに来るっていうのも、つくづく縁だよね。
 八月の『船弁慶』ではこの衣装と、玉三郎さんからいただいた衣装とを
 交代で着ようと思うんだ」
それを聞いたら、やっぱり見たい。
玉三郎の打ち掛けというのも、いつも舞台でため息が出るものばかりなので、
こちらも興味がわくけれど、
やっぱり「船弁慶」という作品を今の形に完成させたという六世菊五郎の、
とっておきの衣装という年代モノのほうに、より惹かれる……。
後で歌舞伎座の人に確認したところ、
私が観た8/14(金)は、おじい様の衣装だった!
私は着物についての知識が乏しいので確認しないと自信がなかったんだけど
やっぱり、っていう感じ。
いぶしたような落ち着いた金糸の、びっしりと模様が縫い取られた
豪華だけど豪奢じゃない、
格調の高さがうかがわれました。
歌舞伎の豪勢さというより、能のわびさびが匂い立つ。
その打ち掛けを
江戸の大奥の上臈のように裾引きずりではなく、
足元をすぼめて着付けた勘三郎の無表情な顔は、
ほとんど能面のようでした。
場面としては尼崎の港。
源頼朝の不興を買った義経が、都落ちをするにあたり
女人を連れていくわけにはいかない、と
弁慶は静に、都に戻って待つよう言い渡す。
静は本当はついていきたいが、泣く泣く了承、
義経と静は別れの盃を交わす。
弁慶は、門出を祝い舞を舞うよう静を促し、
静は義経から烏帽子を賜って都名所を詠み込んだ舞を舞う。
上手には、家来を従え寡黙に座す義経。
下手には、独りたたずむ静御前。
二人の間には、それ以上二人を近づけさせるまいとする弁慶。
どこか裁きのお白洲に引っ立てられた罪人のように、
静の立場が圧倒的に弱いことが
心に迫ってくる。
泣きわめくでもなく、抱きつこうと暴れるわけでもないけれど、
静の義経を想う気持ちはひしひしと伝わってくる。
特に、
弁慶に「踊れ」と言われたときは、胸が痛い。
義経の想いものといっても妻ではなく、
お前は単なる白拍子、と
弁慶から引導を渡されるに等しい。
さらに烏帽子を着けろということは、
ただのたしなみの舞ではなく、
職業としての白拍子の舞を見せろということではないか?
「お前、プロだろ?」っていう感じ?
弁慶も、他の男たちも、
別にあざけったり笑ったり邪険にしたりはしていないけれど、
静は確実に商売女として見下げられている。
女の身の運命というか、
悲しくても辛くても「私はあなたを想っているわ」という
思いつめたまなざしを送りつつ、
最高の舞を舞おうとする静があまりに哀れ。
踊り終わって金地の烏帽子の紐を解くと、
その烏帽子が体の前にぽとりと落ちる、その終焉。
静と義経の行く末の絶望を表すようで、さらに悲痛。
もう立ち去れといわれても後ろ髪引かれ振り返り、
いま一度言葉を交わしたいとにじりよる二人だが、
静の前には弁慶が、
義経の前には家来たちが立ちはだかり、
みつめる視線もすぐに経たれてしまう。
ああ、静。
本当にかわいそう。
義経、なーんにも言わないんだもん。
孤立無援です。
毅然と花道を引っ込む静の凛とした姿を目で追いながら、
涙があふれてきました。
その静を演じた勘三郎が、
後半は、平知盛の霊となって再び登場、
義経が西国に落ちのびようと乗った船を翻弄します。
先ほどの静御前が名前の通り「静」の中にくぐもる情念だとすれば、
知盛は、その情念のほとばしりです。
長槍をビュンビュン振り回しながら、目にも止まらぬ速さでクルクル回転する知盛。
重い衣装やかつらもなんのその、
跳ぶように、浮くように、重力さえ感じさせない足さばき、
お囃子と一体となり、相乗作用で渦を巻くようにして盛り上がるクライマックス!
拍手の中、幕が引かれると花道前に知盛は残り、
お囃子の中から鳴り物(大鼓、小鼓、笛)が幕の前に。
またまた槍を持ちながらダイナミックに回転しつつ
幅の狭い花道を、竜巻のごとく踊り狂い走り去る勘三郎に、やんやの喝采!
一応、弁慶の「数珠をかざしての祈り」に負けて退散したことになってるけど、
もうこんな男たちなんて蹴散らして!っていう感じだったし、
それに近い爽快感がありました。
本当に素晴らしい舞台だった。
いいものを見せてもらいました。感謝。

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