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若さへの伝承「一条大蔵卿」@伝統歌舞伎保存会研修会

昨日、国立劇場で
若手演ずる「一条大蔵卿」を見てきました。
本公演は、中村吉右衛門が大蔵卿ですが、
研修会では昨年襲名披露を行った中村歌昇が大蔵卿、
常盤御前に中村米吉、
鬼次郎が中村隼人、
お京が中村種之助でした。
私は歌昇が大好きなので、彼の大蔵卿を見たくて足を運んだのですが、
もっとも心惹かれたのは、米吉の常盤でした。
位の上の人としての大きさ、品の高さを保ちつつ、
「実は」で前半と後半でまったく違う心情を見せる難しい役。
それもほとんど座ったまま。
今まで見た常盤の中で、もっとも感情移入できました。
とくに、夫の敵である清盛の夜伽を耐えねばならない辛さを
「錦の褥もわが為には、毒蛇の鱗に臥す心地、
 いかなる地獄の責めなりともこの辛さには勝らじ」
と言って泣くところなど、
これまで何度も同じセリフを聞いていたはずなのに、
こんなに常盤をかわいそうと思ったことはこれまで一度もなかった。
若いって、そういうことなのかも、と思った。
お京の種之助、隼人の鬼次郎も、
「よかった」と思うところは「怨」や「恨」のこもったところなのよね。
この前見た松緑の「熊谷陣屋」でも、
義経に向かって
「私はわが子を犠牲にしてまで、命に従いましたよ、さあ、どうです」
とばかりに目をむくところが、これまでになくいたいたしい直実だった。
「恨」や「怨」は、エネルギーだから、
若くても自分のものにしやすいんでしょうね。
それに対して、諦観とか、しがらみとか、
そういうものは、歳を重ね、実人生でもいろいろ経験して初めて、
奥の深い表現が可能になるのではないかと思いました。
さて、
歌昇の大蔵卿。
ときどき、はっとするほど吉右衛門に表情が似ていて、
一生懸命習ったんだな~、と思いましたよ。
平成中村座で勘九郎の大蔵卿も見ていますが、
中村屋の大蔵卿と播磨屋の大蔵卿って、全然解釈が違って見えた。
中村屋の大蔵卿は爽快感です。
どこまでも愛らしく、かっこよく、観てるとこちらの顔までほころぶ。
その「阿呆」ぶりを楽しむところもあるし、
ぶっかえって颯爽とした正義の味方になるとやんややんやの大喝采。
鍛えた剣の腕を、ようやくここで発揮できる喜びに満ちています。
ひるがえって播磨屋の大蔵卿はぶっかえろうが阿呆に戻ろうが、印象がまったく違う。
悲壮感、とでもいいましょうか。
かっこよくなればなるほど見ていてせつなくなります。
播磨屋の大蔵卿がハムレットを参考に役づくりされているというのは、言い得て妙。
「歌道は元より弓矢の道にも、やわか人には劣らねども、
 わざと表へ出さずして、若年よりの、ホホ造り阿呆」
中村屋が言うと、
「どうだ、ここまで阿呆に化けられてすごいだろ、オレ!」って聞こえるけど、
播磨屋が言うと、
「ボクはもっと世のため人のため自分のためにいろんなことができたんだ、
 でも、そこを曲げて、偽りの生活を20年も送らざるを得なかった」と聞こえる。
「うつけとなって世を暮せば、源氏にも愛せられず、又平家にも憎まれず…」に
「世にへつらわぬ我侭暮らし」と続くわけですが、
「愛せられず」「憎まれず」がどれだけ辛いか、
その辛さが「へつらわぬ」暮らしよりずっと勝って辛い「二十年」であり、
これからもまた、「造り阿呆」で一生を終えねばならない。
幕切れでの「フフ、ハハ、フフ、ハハ、・・・」は
そんな自分のこれからの人生を思いながらの自嘲であり泣き笑いであると、
強く強く感じました。
これだから歌舞伎は面白い。
どちらが優れているとかではなく、
大蔵卿の何を見せるか、焦点の当て方が違うんだろうな。
いずれにしても、
若い歌昇や勘九郎が、自らが連なる系譜の芸をしっかりと受け継いで、
私たちにいろいろな大蔵卿を見せてくれている、という事実に感謝。
勘三郎は死んでしまったけれど
その肉体はもう、この世にはないけれど、
ちゃんと伝承されるものはされていく。
これまでも、これからも。
そこが伝統芸能の底力なんだと思いました。
単なる「血統」ではなく、芸の伝承であることが。
それにしても。
かたや造り阿呆で源氏の流れを組みながら無害と思われお下がりで常盤をもらった大蔵卿、
こなた敵の清盛ほか「二度三度と嫁入り」して恥知らず、恩知らずと思われている常盤。
この夫婦の人生、すさまじすぎる!

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