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「ガランチード」@東京芸術劇場中ホール

TSミュージカルの「ガランチード」を観てきました。
これは、
劇団主宰者の死によって道を選びあぐねる劇団員たちの葛藤を描いた
かつての作品「砂の戦士たち」を
その劇中劇のみを別の作品にする、という形でつくられたものです。
とはいえ、
私は「砂の戦士たち」は未見なので、
まったく新しい一つの作品としてみました。
新しく劇中劇となったのは、ブラジル移民たちの話です。
少し前に橋田壽賀子さんのドラマ「はるとナツ」が放送され、
ブラジル移民たちの生活や一世たちの苦労などが描かれていました。
私くらいの年齢だと、
ブラジルには「日本は太平洋戦争に勝った」と信じて疑わない
「勝ち組」と呼ばれる人たちがいることも知っていますが、
若い人はまったく知らないでしょうね。
1970年代に、
戦後30年くらい経って日本に来た「勝ち組」の一人を追った
NHKのドキュメンタリーがありました。
悲しいくらいアメリカナイズされた日本のあれもこれもを見させられ、
それでも「勝った」のだと一歩も引かずに、
彼はブラジルに帰っていきます。
アメリカ軍の基地に張りめぐらされた金網に指を掛け、ぴくりとも動かず、
その金網越しに動く飛行機や車両をじっと見据えるその場面を、
私は今でも思い出すことができます。
さて、この「ガランチード(信頼)」。
戦争が始まる前は、「働き者でウソをつかない」と評判で、
ハポネス・ガランチードとさえ呼ばれていた日本人移民が、
敵国となってからはスパイとして排斥され、隔離され、
戦後も自由に生産物を売買する権利をもてなかったというところから、
なんとかもう一度ブラジルで生きるために活路を開こうとする物語。
そこで
それまでは「故郷に錦を飾る」つまり、いつかは日本に帰ろうと思っていた一世と、
ブラジルで生まれ育った二世との気持ちのズレや、
「勝ち組」の問題、
「ふるさと」とは、「国家」とは、などの問題がちりばめられます。
入れ子の外枠では
団結しているはずのコミュニティにあっても気持ちがバラバラな寂しさを、
劇団員たちの思惑の違いとシンクロさせる形で進行させていきます。
主宰者を信奉して集まり、この劇団でしか生きてこなかった劇団員たち。
主宰者の死、新しいリーダーへの戸惑い、将来への不安。
そこに「よそ者」がブラジル移民の本をもってやってくる。
彼はいかなる「劇団」にも所属せず、やってきた俳優・紀元。
それぞれの思惑で、
公演は直前になって中止もやむなしの雲行きになっていきます。
「何かに属していなければ安心できない」
「自分たちと異なる価値観を認めようとしない、排除する」
「誰かについていくことしかしない」
「自分はどうしたいかを先に言わず、物事の結果に自ら責任を負わない」
「リーダーに不満や批判だけは言う」
誰にでも思い当たるような私たちの社会の縮図を、
すべてぶち込んだ、といってもいいような、ハードな展開です。
紀元役の坂元健児がパンフレットで
「この作品は直球です」と言っていますが、まさにこの一言につきるでしょう。
TSミュージカル主宰でこの作品の企画者・謝珠栄は、
「直球」それも剛速球の迫力で、
登場人物も役者も、押し流すように圧倒していきます。
「ブラジルっていえば、サッカーでしょ」程度の認識の若者たちが、
どんどん社会の深い問題を体のなかにとりこんでいく過程は、
フィクションであってノンフィクション。
とりわけ、
実際にチリ人と日本人の間に生まれた伊礼彼方は、
ブラジル人と日本人のハーフを演じるというハードな配役。
彼の台詞の一つひとつを聞きながら、
とてもそれを劇団員「イトウ」や劇中人物「イチロウ」だけの心情と
片付けられない衝動にかられました。
日本人社会に、ブラジル人の母と二人で暮らす気持ち、
日本に行ったことがないからこそ日本にあこがれる気持ち、
ハーフだからこそ、日本人になりたいと強く思う気持ち。
自分にとっての「祖国」とは何か、
その「祖国」から疎外されなければならないのはなぜか。
このテーマは、
珠自身が台湾と日本のハーフであることからくる。
常に常に心に思いながら生きてきた彼女の叫びが、
ここに重なります。
かなりハードなテーマであるにもかかわらず、
(そして序盤は説明も多く、こりゃタイヘンだろう、と思ったのは事実だったが)
TSらしく、ダンス満載のつくりで飽きさせない。
単なるダンスだけでなく、カポエラや剣舞を取り入れ、緊迫感抜群。
歌は、
相変わらず坂元の伸びのある明るい声が、暗い物語のなかでも救いとなります。
畠中洋もいつもながら歌にダンスに切れがあって舞台を支えてる。
伊礼は、「アイーダ」を経て、またうまくなったのではないでしょうか。
声を張り上げなくても十分舞台を仕切れる存在感を感じました。
客席には、かなり年配の女性が多かったです。
「ブラジル」に関係する人でしょうか。
かつて活路を見出すためにブラジルに日本人が渡ったように、
今、日系のブラジル人が多く日本にやってきている。
「彼らを見る目が変わった」という多くの若いキャストたち。
それは、
この舞台を観に来た人たちも同じだと思います。
また、
私はものかきとしても、
いろいろと考えさせられることがありました。
人には書かずにはいられない物語というものがある。
多くはエンターテイメントとなじみにくいものだろう。
「堅い」「重い」「わかりにくい」「タブー」など
言い訳はいろいろつけられる。
けれど、そこを作っていく努力が必要。
作れば作っただけの反響があり、
そこから始まるものがある。
帰路、そんなことを考えていました。
*チリの巨大地震、伊礼くん、心を痛めていることでしょう。
 まだ被害の全容ははかりしれません。
 一人でも多くの人が助かることをお祈りします。

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