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「マリーアントワネット」


昨日観た「マリー・アントワネット」。
私の席は二階。
当然、出演者の顔など、ほとんど識別できない。
それでも、私には彼らの表情がわかった。
彼らの「声」が、私にすべてをおしえてくれた。
声は振動、声は艶、声はドラマ。
土居裕子は、修道女のなりをしているからではなく、
歌う声の純粋さと神々しさにおいて、修道女である。
北村岳子は、いかがわしい装いのためではなく、
歌い方にこめられた夜の香りと、男を男と思わない肝っ玉ぶりによって、
売春宿の女主人である。
石川禅は、気弱で小ばかにされたキャラクターを演じているが、
ひとたびその歌声が響けば、彼が「王」であることがわかる。
気品と誇りと、虐げられたことのないのびやかさが漂うのだ。
そして、新妻聖子。
マリー・アントワネットの対極として据えられたもう一人のMA、マルグリット・アルノー。
物乞いであろうが、娼婦であろうが、革命闘士になろうが、
声が発せられた瞬間、「彼女が主旋律を奏でている!」とすぐにわかる。
声に魂が宿っている。歌そのものが感情である。音が訴えてくる。
たとえ歌詞が一つもなくても、彼女がメロディを口ずさむだけで、観客は魔法にかかるだろう。
声にドラマがある、といえば、鈴木綜馬のオルレアン公も秀逸。
ある時は大貴族然としてお公家さんチックを漂わせ、
かと思えばシトワイヤンを標榜し、革命家たちをけしかける。
しかして実体は、単に「王になりたい」という欲望を掻き抱き、
王妃を陥れようと暗躍するいじましい陰謀家。
物語の重要な鍵を握る人物として随所に出てくるオルレアン公は、
人間の本音の部分・悪の部分を演じているのに、ちっとも嫌味がない。
観る者を共感させる感情表現が見事だ。
大御所山口祐一郎扮するカリオストロ伯爵との対峙は、
拮抗して全体のバランスをうまく保っている。
鈴木は今回の凱旋公演からの新キャストだが、
すでにカンパニーを鈴木色に染めている。
もう一人の新メンバー、フェルゼン役の今拓也も、朗々と歌い上げる声はなめらかで声量十分。
まっすぐな人柄のフェルゼンを体現している。
曲の細部に感情の揺れがこめられれば、完璧なのだが。
これから2ヶ月、演じるほどによくなっていくことを期待する。
彼を受け止め、そして翻弄するマリー・アントワネットには、涼風真世。
前半は、何もわからぬ娘としての幼さを、後半は、子どもの母親として成長した姿を、と
意識的に演じ方を変えている。
特に子どもを失ってからのマリーが素晴らしい。
ただ、「演じる」マリーは見えてきたが、「歌う」マリーの印象は薄かった。
「王妃マリー・アントワネット」のオーラを大舞台で放つことのできる数少ない女優であるだけに、
歌声で他を圧倒すれば、さらに存在感が増すだろう。
欲をいえば、前半は単なるわがまま娘ではなく、憎めないイノセントさが、
後半は出自から匂い立つ気高さが、もっと際立つとよかった。
原作は遠藤周作。
ドイツ人ミヒャエル・クンツェとシルヴェスター・リーヴァイにそれぞれ脚本と音楽を委嘱し、
彼らと綿密なやりとりをしながら、日本チームは栗山民也が演出、音楽は甲斐正人である。
自らがクリスチャンであり、フランス留学経験もある遠藤の本に、
ヨーロッパ人がインスパイアされるというところにこのミュージカルのすごさがある。
単に「王妃マリーの悲劇」で終わらせず、
人間にとって神とは何かという命題が「流れ星のかなた」という歌にこめられ、
それがすべての歌のモチーフとなっているのは、リーヴァイの信念。
「正しいと思ってやったことの結末は、すべて正しいのか」という
今日的なテーマは、クンツェの思うところである。
このテーマ性で栗山民也演出! はまりすぎ。
世界観の共有によって、民衆と王侯の物語はラスト集約されていく。
フィクションとはいえ、史実に沿った歴史劇なので、説明的になるところが多いのは否めない。
そこを狂言回しの劇作家・ボーマルシェ役の山路和弘が、軽妙に料理する。
彼は「距離を保て 束縛されるな あらゆるものに」という歌詞の示すものを、終始実行していた。
また「ギロチン」を意匠化した、簡素ながら存在そのものに意味のある舞台装置も斬新。
そこに表情を与える照明も、見逃せない。
進化した日本発ミュージカルの集大成。
「日本ミュージカルの基準」が変わる、作品である。
5月30日まで、東京・日比谷の帝国劇場で。お見逃しなく!

王妃マリー・アントワネット(上巻)

王妃マリー・アントワネット(下巻)

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