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「タイタス・アンドロニカス」


今、さいたま彩の国芸術劇場では、唐沢寿明主演の「コリオレイナス」をやっていますが、
残念ながら、このチケットはとっていない。
そこで、この演劇でシェイクスピアや蜷川幸雄の演劇に興味を持った人のために、
「タイタス・アンドロニカス」を紹介します。
ローマ軍の名将タイタスは、清廉潔白な人柄で、尊敬を集めています。
しかし一方で情を一切排除し、軍人として規律第一に徹する性格が後から禍いを呼ぶことになります。
ゴート族との戦闘で息子を何人も失ったタイタスは、
捕虜にしたゴートの女王タモーラの懇願も聞かず、彼女の長男を、生贄にしてしまいます。
タモーラはローマ皇帝の思いものとなり、権力を得ると、タイタスへの復讐を始めます。
彼のもっとも愛する宝、娘ラヴィニア陵辱を息子らにそそのかすのです。
息子らは、自分達の行状が明るみに出ないよう、ラヴィニアの舌と腕を切り落とし、原野に放置します。
それを知ったタイタスは、タモーラの息子たちを捕らえて殺し、
二人の人肉で作ったパイをタモーラにふるまいます。
タモーラの狂乱。
救いのない話です。でも、目が離せません。
ほかに、ムーア人エアロンが、タモーラを使ってローマに復讐しようとする、
そのサイドストーリーも物語を複層にして、厚みを与えています。
私が初めて観たのは映画「タイタス」。
監督はジュリー・ティーモア、1999年の製作です。
ローマ時代の話に自動車を登場させたり、という演出は、一つ間違えば失笑もののところ、
キッチュでケレン味さえ感じさせるところは、
さすが「ライオンキング」の仕掛けを作った人だな、と思いました。
主演アンソニー・ホプキンス、ジェシカ・ラングという贅沢なキャスティングです。
人間の怒り・憎しみ・そして愚かさが、いろいろな形で出てくるこのお話。
とにかく残酷きわまりない話ですが、
荒野をさまようラヴィニアの姿など、哀しくも美しい映像は印象的で、
一度は見てよかったと思う映画です。
目からの刺激を追求した映画とはまた違った演出が、蜷川幸雄の舞台。
私が観たのは2004年、初演のものです。
2006年との一番の違いは、エアロンが小栗旬じゃなく、岡本健一だったこと。
私は小栗バージョンを観ていないので、比べられませんが、
岡本健一のエアロンは、黒豹のような野性味があって、よかったです。
麻実れいとのからみなど、ちょっと直視できないほどフェロモン出まくりでした。
この舞台でブレイクしたのは真中瞳です。ロンドンでも立派に評価されたようですね。
ニュースステーションでお天気原稿をたどたどしく読んでいた頃とは別人で、本当に滑舌もよく、
表現力のある俳優ぶりでした。
そして、何と言っても吉田剛太郎。
まるでビートたけしのコントのように、泣き笑いしながら自分の頭をガンガン叩く姿には、
老いた人間のかたくなさが、そのかたくなさをわかっていながら変えられない辛さが、
まるごと表わされていました。
映画「タイタス」のリアリティとは一変、赤い紐をたらして血の代わりとする演出には、
観客をバカにしてるのか、という声もあったそうですが、
私は心におし寄せるものがありました。
凄惨な見た目に「ひどい!」と反応するのではなく、
犯され、手を切られ、舌を切られてさまよう娘の心の痛さが、
見えない空気の圧力となって、私を殺してしまいそうでした。
コリオレイナスもタイタス・アンドロニカスも、
軍人としては有能で、決して権力にあぐらをかくような低俗な人間ではない。
しかし、「正しい」=「最良」という単純な図式だけでは
人の心は動かせないということを、二人とも知らなかったのでしょう。
では、どうすればよかったのか。
昔々のお話は、必ず今に通じるものを持っています。
シェイクスピアにとってもローマ時代ははるか昔。
故事に例をとる形で、彼も彼の時代の政治にもの申していたのでしょうね。
小栗くんバージョンの「タイタス・アンドロニカス」は以下のDVDに収録されています。
彩の国 シェイクスピア・シリーズ NINAGAWA×SHAKESPEARE(3)
*2006年7月の複数の日記をもとに、新しく書きました。

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